研究課題/領域番号 |
23K12008
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
岩田 直也 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (00880858)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
|
キーワード | プラトン / アリストテレス / 分割法 / 感覚知覚 / 真理 / 定義 / 知識 / 認識論 |
研究実績の概要 |
本研究計画の主目的は、西洋古代における哲学的探求の方法論、特に定義探求と基盤的信念の獲得方法についての歴史的かつ哲学的意義を明らかにすることである。今年度は関連するプラトンの「分割法」とアリストテレスの『魂について』における知覚と真理に関する論点を中心に、これらの思想がどのようにして我々の概念形成に影響を与えるかを探究した。 プラトンの「分割法」は、彼の後期対話篇において重要な役割を果たしており、定義を発見し、示すための方法論として機能する。この方法は、対象の本質的属性を段階的に分割し、最終的にその定義を明らかにするプロセスを通じて、知識の信頼できる基盤を構築する。たとえば、『ソフィスト』においては、分割法を用いてソフィストとそれに似た技術者の区別を行い、各々の定義を明確にする作業が行われている。このプロセスは、ただ定義を提示するだけでなく、それがなぜ妥当なのかを論じることにも焦点を当てる。 一方、アリストテレスの『魂について』では、知覚と真理に関する考察が展開されている。アリストテレスは、感覚知覚がどのようにして我々の基盤的信念を形成するかについて詳細な分析を行っており、特に感覚それ自体が信頼できる情報源であるという視点を提供している。例えば、彼は色や音といった感覚固有の対象について、それらを誤認することはないと主張している。この議論は、感覚知覚が概念形成と知識獲得の基礎であることを示しており、彼の哲学的な定義探求の根本原理となっている可能性がある。 これらの研究を通じて、プラトンとアリストテレスが提示する哲学的方法論が、いかにして古代から現代に至る哲学的探求に影響を与え続けているかを検討した。さらに、これらの古典的議論が現代哲学における知識論や認識論の議論にどのように応用できるかの検討も行うことで、哲学的探求の方法論の発展とその哲学的意義を明らかにすることを目指した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、プラトンの「分割法」とアリストテレスの『魂について』の研究に主に取り組んだ。これらの研究は、哲学的探求の方法論と基盤的信念の獲得方法についての理解を深めることを目的としている。 プラトンの「分割法」は、『ソフィスト』におけるソフィストとそれに似た技術者との区別を明確にする手法として機能し、哲学的定義の発見と提示のための基盤を構築する。この方法は、対象の本質的属性を段階的に分割し、それによって各定義の妥当性を検証するプロセスを通じて、理論的な洞察を提供している。この手法により、定義がなぜ妥当かを論理的に解明することが可能となる。 アリストテレスの『魂について』では、知覚と真理の関係に焦点を当てた研究が展開された。アリストテレスは、感覚知覚が我々の基盤的信念を形成する過程においてどのように機能するかについて詳細に分析し、感覚固有の対象について誤認することはないという彼の主張は、知覚が概念形成と知識獲得の信頼できる基盤となることを示している。この点から、感覚知覚が我々の認識の根底にある信頼性を理解する上で重要な洞察が得られた。 また、プラトンの『メノン』と『パイドン』における「想起説」の研究も進行中である。この理論は、我々が生得的に知識を持っているという考えを基に展開され、知識獲得の過程が実際には想起であるとするプラトンの見解は、哲学的探求において重要な位置を占めている。これにより、知識とは何か、そしてそれをどのようにして得るかという基本的な問題に対する新たな理解が提示されている。 今後もこれらのテーマに基づいて引き続き研究を進め、来年度にはさらに具体的な成果を報告できるよう継続予定である。この取り組みが哲学的探求の方法論の歴史的発展とその哲学的意義の明確化に寄与するものと確信している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策について、以下の三点を中心に取り組む予定である。第一に、アリストテレスの『魂について』における知覚と真理に関する研究をさらに深化させる。これには、テキストの精緻な分析を行い、アリストテレスの理論が現代認識論における問題にどのように応じるかを探ることが含まれる。特に、感覚知覚が知識形成にどのように貢献するかに焦点を当て、哲学的な議論として論文にまとめ上げる。 次に、プラトンの『テアイテトス』における知覚論の研究を進める。この対話篇でプラトンは、プロタゴラスの相対主義との対比から、知覚が知識獲得プロセスにどう関与するかについて深く探求しており、この研究を通じてプラトンの知覚論が現代の認識論的な議論とどのように対話するかを明らかにする。具体的には、知覚が単なる感覚データの受け取りからどのようにして真実と知識に結びつくかの過程を解明する。この過程で、現在取り組んでいる「想起説」に関連させて、知覚判断において生得概念がどのように機能し得るのか合わせて比較検討を行う。 最後に、ヘレニズム時代の哲学者たちがどのように知覚と定義獲得の基盤を理解していたかについての研究も可能な限り見通しを立てる。この時代において、知覚の理論は多様な解釈を提供しており、これらを比較分析することで、古代哲学における知覚と定義の関係に新たな光を当てる。具体的には、エピクロスとストア派といった異なる哲学的流派が知覚をどのように捉え、それが定義獲得にどのように影響を与えたかを探る。とりわけ、エピクロスについては、アリストテレスと同様、「知覚は誤りえない」といった不可謬説を採用しており、両者の比較検討は重要な論題である。 これらの研究を通じて、古代から現代に至る哲学的探求の方法論の発展に寄与し、哲学史および認識論に関する理解をさらに深めることを目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度の使用額が生じた理由は、主に独立基盤形成支援の増額によるものである。この増額は、研究の十分な推進には必要不可欠であり、生じた余剰金は計画外であったものの、今後の研究の発展に資するために有効活用することができる。具体的には、今後の研究に必要な物品費、主に図書購入費用、及び国際学会参加のための旅費に充てる予定である。これらは、研究テーマの初期の進展に不可欠であり、国際的な学術交流を通じて新たな研究の展開を促すものである。
|