研究課題/領域番号 |
23K12019
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
志田 雅宏 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 講師 (10836266)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | 宗教史 / ユダヤ教 / キリスト教 / 比較宗教 / 中世 / 宗教論争 / 民間伝承 |
研究実績の概要 |
本年度は中世ユダヤ教文学におけるキリスト教論駁の文献についての研究と発表をおこなった。ひとつは中世後期のイベリア半島におけるキリスト教論駁書(ハイーム・イブン・ムーサ『盾と槍』)についての研究であり、2023年7月のヨーロッパ・ユダヤ学会議(フランクフルト)にて研究発表をおこなった。同発表では、ユダヤ人のキリスト教への強制的な改宗が社会問題化していた当時のイベリア半島の状況をふまえつつ、ユダヤ教の伝統についての自己理解がどのように表現されたのかを明らかにした。 もうひとつは中世フランスのキリスト教論駁書(ヨセフ・ベン・ナタン・オフィツィエル『ヨセフ・ハメカネの書』についての研究であり、2023年9月の日本宗教学会にて研究発表をおこなった。同発表により、中世フランス北部におけるユダヤ教とキリスト教の指導者層の交流や文化的な影響関係を明らかにすることができた。 また、2024年2月には東京大学先端科学技)術研究センター主催の講演会にコメンテーターとして参加し、中世のユダヤ人によるキリスト教論駁書を紹介しつつ、中世ユダヤ教世界のイエス伝承『トルドート・イェシュ』について、講演者のH・ツェッレンティン教授と意見交換をおこなった。 このように、中世西欧のキリスト教への対抗的な文学作品のうち、論駁書と民間伝承についての研究を着実に進めた。次年度以降、本年度の研究および研究発表によって得られた成果を論文等によって発表しつつ、イベリア半島(セファラド)とフランス・ドイツ(アシュケナズ)のユダヤ人社会におけるキリスト教への対抗的な文化の諸相について、さらなる文献的なアプローチを進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展している理由は以下のふたつである。 第一に、中世ユダヤ教世界における論争文学や民間伝承について、主として海外の研究者たちから重要なアドバイスやコメントを受ける機会が得られたことである。2023年7月のヨーロッパ・ユダヤ学会議や、2024年2月の東京大学先端科学技術研究センター主催の研究会のさいに、本研究者は同様の研究テーマの海外の研究者と交流をする機会を持った。また、作成中の英語論文に対する専門的なコメントや批判も得ることができた。これらの機会において、本研究者が気づかなかった視点や先行研究を得た。このように、海外の研究者との研究交流によって、次年度以降につながる有益な知見と展望を得られたことは、本研究の進展を判断するさいの説得的な理由といえる。 第二に、一次文献と研究書の入手がスムーズにおこなわれていることである。本研究に必要な文献は予定通り集めることができており、本テーマを構成するいくつかのトピックを相互に関連づけながら研究を進められる状況にある。このように、文献の入手が滞りなく進んでいることは、研究の順調な進展を可能にする理由といえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は以下の3つの課題を重点的に進める。 第一に、本年度に研究発表をおこなったテーマについての論文を執筆することである。本年度中に着手したものも含めて、日本語と英語での研究論文の完成をめざす。 第二に、中世ユダヤ教世界のイエス伝承である『トルドート・イェシュ』についての学術書を準備することである。本テーマについては研究発表や研究論文を含めていくつかの成果をすでに発表してきたが、それらをまとめて学術書として出版すべく、より包括的な調査と研究を進める。 第三に、中世ユダヤ教哲学におけるキリスト教の描写や教義批判についての調査に着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた物品費と旅費をやや下回ったが、物品費にかんしては当初の予定よりも書籍の購入費用が下回ったこと、旅費にかんしては国内出張の件数が当初の予定を下回ったことが理由として挙げられる。 次年度の使用計画としては物品費と旅費に充てる予定である。とりわけ物品にかんしてはPCなど機材の購入も検討する。
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