研究課題/領域番号 |
23K12058
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山本 美希 筑波大学, 芸術系, 准教授 (90783770)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | 文字なし絵本 / サイレントマンガ / 文字のない物語 / カラン・ダッシュ / テオフィル・アレクサンドル・スタンラン / 木版小説 / 児童雑誌 / フリーゲンデ・ブレッター |
研究実績の概要 |
言葉による物語表現は一般によく知られているが、絵(画像)による物語表現もある。現代においてその代表となるのは絵本やマンガであるが、その中にはセリフやナレーションなどの言語表現を排し、絵のみで内容を伝える作品がある。それらは主に「文字なし絵本(Wordless picturebooks)」や「サイレントマンガ(Silent Comics)」と呼ばれてきた。このような絵による物語表現は、主に19世紀後半に広まったと考えられ、大きく3つの分野として捉えられている。それは、①新聞・雑誌掲載のコミックストリップ(1ページ完結の短い物語の連載)、②文字のない長編物語(木版小説やカートゥーン・ノベル)、③絵本である。画家たちは、これらの絵と物語が交差する複数の分野を跨いで、創作活動を展開してきた。しかしそれらの分野が個々に研究されているために、この表現全体の世界的な広がりや互いの分野への影響関係が捉えられていない。 そこで本研究では、図書館の国際的総合目録データベースWorldCatを利用して、19-20世紀前半の文字のない物語表現を分野横断的・包括的に捉え、また日本やアジア圏を含む世界中の作品例も含めて概観することで、その歴史的発展と全体像を提示する。文字のない物語表現を分野横断的に捉えて分析することができれば、その歴史的な発展や世界的な広がり、互いの分野への影響関係、現代の表現への変遷が明らかになるはずである。 R5年度は、まず19世紀半ば以降に欧米の雑誌に掲載された文字のないコミックを調査した。また、7月にプリンストン大学図書館の特別コレクションであるコッツェン児童図書館にて、1950年代以前の文字なし絵本に関する調査を行い、資料の収集に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【1】19-20世紀初頭のサイレントマンガの調査 コミック研究では、言葉のない物語(Bilder ohne Worte)は、ドイツの雑誌フリーゲンデ・ブレッターから始まったと言われている。それを手掛かりに、まずは19世紀後半のドイツやフランスの雑誌を調査し、言葉のない物語の掲載状況の確認を行なった。特にフランスの雑誌Le chat noirには、カラン・ダッシュ、テオフィル・アレクサンドル・スタンラン、アドルフ・ウィレットなど数多くの作家の文字なし物語の掲載が確認できた。20世紀前後になると児童雑誌への派生も認められた。 【2】学会発表 先に述べた【1】の調査内容について、絵本学会の口頭発表にて報告した。 【3】コッツェン児童図書館での資料収集 コッツェン児童図書館では、図書館のデータベースから「Stories Without Words」のキーワードが付された資料をピックアップし閲覧した。実物を目視で確認したところ、およそ140冊の文字のない物語を確認し収集できた。現在はコッツェン児童図書館での調査資料の整理を進めるとともに、制作の背景の確認や読み取り、作者や出版社情報の調査を行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
R6年度は、文字なし絵本の初期作品の資料調査を進める予定である。欧米の雑誌掲載の文字なし物語(サイレントコミック)については、手元の資料を精査しながら学会発表を行い、論文の執筆を進める。 【1】19-20世紀初頭の文字なし絵本の調査 ドイツおよびイギリスの児童図書館を訪問し、19-20世紀前半の文字のない絵本の資料収集を行う。 【2】学会発表 コッツェン児童図書館で収集できた資料のうち、日本や中国を中心とするアジア圏の文字のない物語についてまとめ、学会発表し、論文投稿に向けて準備を進める。 【3】ディスカッションセミナーの準備 これまで収集できた文字のない絵本の資料には、アメリカ、イギリス、日本、中国、フランス、ドイツ、チェコ、ロシア、スウェーデンなどの刊行物が含まれており、国際的に広がりがあったことがわかる。R7年度に、中国絵本やロシア絵本の研究者などを招いてディスカッションセミナーを開催するため、その準備を進める。 【4】19-20世紀初頭の児童雑誌に掲載されたサイレントコミックについて、論文にまとめ投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
想定より数多くの資料が集まったことから、それぞれの資料の背景や作家の経歴調査などに時間がかかり、旅費や謝金などが使いきれなかった。ただしR7年度にはディスカッション・セミナーの開催を予定しており、今年度残した謝金もあわせて使用する予定である。
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