研究課題/領域番号 |
23K12078
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
堀江 秀史 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (10827504)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | 戦後日本 / 寺山修司 / 谷川俊太郎 / 昭和40年代 / 時代論 |
研究実績の概要 |
本年度は、本研究で課題とする1930年代生まれの芸術家たちが大きく活動を展開する1960年代について、以下の研究を行なった。 ひとつには、まずはその背景の俯瞰的な確認として、戦後日本社会史について従来研究を押さえるものである。戦後社会史を牽引した見田宗介をはじめとして、続く現在の社会学者による言説を、第61回日本比較文学会東京支部大会シンポジウム「昭和四〇年代カウンターカルチャー再考」(2023年10月28日)にてまとめた。これは、井上健東京大学名誉教授の企画により、佐藤良明同名誉教授の基調講演、この時代を研究するスティーブ・コルベイユ氏、藤田直哉氏、および堀江による個別の事例を集結させ、時代相の一端を浮き彫りにしようとする試みであった。堀江は、「寺山修司の昭和四〇年代――海外視察との関係から」と題し、見田の見解では「熱い夢」の時代と呼ばれる昭和40年代の寺山の同時代への眼差し、そしてそこへの働きかけを論じた。なお、別の研究課題の成果になるが(共同研究=基盤研究(C)20K00301)、ここで充分に発表できなかった部分について、アメリカウィスコンシン大学における寺山修司のシンポジウムにて発表した。 また、「擦れ違う世界認識 谷川俊太郎と寺山修司」(『ユリイカ』2024年3月臨時増刊号)では、戦後詩人として無類の活躍をみせる谷川と寺山の、1950年代末から続いた交流とその意味について論じた。 研究のアウトリーチ拡大のための活動としては、『朝日新聞』朝刊(2023年8月23日付)「ひもとく」欄にて、没後40年を迎えてますます注目の集まる寺山修司を紹介するなかで、社会的な影響力が甚大なものとなったSNSなどのインターネットの匿名的言説空間と、文学者個人が露悪的に自己を曝け出すさまを対比することで、過去の作家の同時代的意義を論ずる記事を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
学会活動を通じて、論文等著作執筆のための下準備を推進できた。また、一般紙誌への寄稿によって、本年およびこれまでの研究内容の一部を活字化できた。 ただし、寺山修司研究を新書として広く一般に供するという課題は、なお達成をみていない。これは、研究を進めるうちに、本研究で明らかにすべき、1930年代生まれの芸術家たちの協働を考察するにあたっては、芸術家個々人の活動及び、それらを包括的に眺め渡す視座が同時に必要とされることが益々判明してきたからである。微視性と巨視性を同時に持たねばならない、この極めて広範な研究対象について、本年度は、谷川という戦後詩の巨人と寺山修司との活動という前者の視点と、社会学的見地から論じられてきたことという巨視的な視点の双方をバランスよく研究できた。そしてそれは、中期的目標としての新書出版への着実な進展であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
短期的目標としては、下記の二点を課題とする。 一つは、上記の昭和40年代に関する発表について、論文にまとめて時代論の一部として発表する。 二つめは、寺山修司研究の深化である。これまでのわたし自身の研究では未だ十分に論じられていない部分、例えば彼に対する貶毀のうち最も知られる盗作問題について、わたし自身これまで何度か論文を発表してきたが、なお深めねばならない点がある。それは、主観的印象に左右されない、実証的、客観的な、盗作問題の検証である。現在も活発に進む寺山にまつわる言説の構築だが、わたしの観察するところ、その問題はなお充分にはなされていない。本研究が寺山を基盤として時代に迫るものである以上、これは避け得ない問題である。この研究を徹底させることは、本研究の基盤を固めるのみならず、その微視的な問題を通じて、同時代の通念、即ち時代性の一部へと到達することにも繋がるはずである。 また、比較的初期に属する盗作問題とは別に、寺山修司の「熱い夢」の時代(上述)における多岐に亘る活動もまた、単に作家論の範疇を超え、時代を探るうえでも意義深いであろうことが、23年度の活動から明確になってきた。多メディアでの同一素材の発表(アダプテーション)は、単に作家の個性に帰すべきものでは決してなく、時代精神の要請でもあったことを、24年度に論じ切りたい。 それらを経て、中期目標として、新書などのかたちで、まずは寺山修司について、本研究の成果をより広い読者に向けて発表したい。
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