研究課題
日本大学芸術学部(日芸)の卒業生・学生と結成した「実存文学研究会」とともに、日本実存主義文学の流れを跡づけ、その意義を明らかにする研究をおこなった。今年度は『江古田文学』第114号(特集・日本実存主義文学)の責任編集者として、数々の執筆企画に携わった。その一端を以下に述べる。・高山樗牛から飯島宗享に至るまでの実存主義文学・哲学に関する論文集「「私」への誘い~実存主義文学論~」。 ・日芸の卒業生・学生十六名による詩と自作解説集。 ・現代における実存の意義を問うアンケート「実存主義は滅んだか?」(回答者:浜崎洋介、細見和之、茂牧人、山中剛史、飯島徹、多岐祐介、上田薫、清水正、中村文昭、北嶋藤郷)。 ・「あなた」「戦争」「不条理」等の四十項目からなる「実存主義文学事典」。文芸誌で「実存主義」が特集されたのは1995年の『文藝』が最後であり、約三十年振りの試みとなった。「実存とは何か」という原初的な問いから、「いま実存を語るとは何か」という現在的な問いに至るまで、網羅的に取り上げる一冊となった。論文「あなた」が生れるとき、それはあなたが死ぬとき」は、戦後最大の詩人と称される田村隆一の詩における「あなた」像を解明したものである。「もう一つの「荒地」への旅」は、牧野虚太郎の詩的生涯を、単行本未収録の詩篇・エッセイを中心に読み解いたものである。実存主義文学を感性的に把握するため、自身でも詩を執筆・公表した。「夏祭」「乳母車」「勿忘草」がそれである。本研究をとおして、日本実存主義文学の軌跡が明らかとなり、現代における「実存」のあり方も見えてきた。『江古田文学』で特に好評だった「実存主義文学事典」を単行本にする企画が現在進行中であり、次年度以降に繋がってゆく研究が行われたと言える。※ここに掲載しきれなかった論文一覧や、論文の副題・掲載誌については、researchmapをご参照ください。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、おおむね当初の予定通り進展している。『江古田文学』第114号では、「「私」への誘い~実存主義文学論~」と題した、高山樗牛・石川啄木・生田春月・萩原朔太郎・太宰治・椎名麟三・黒田三郎・鈴木喜緑・菅谷規矩雄・神谷美恵子・飯島宗享についての論文集を企画した。また、「あなた」「戦争」「不条理」といったさまざまな言葉の「再定義」をめざした「実存主義文学事典」に取り組んだ。執筆者はいずれも、日芸の卒業生・学生である。その多くが、学術叢書『実存文学』(山下洪文監修、2022年~、未知谷)で論文の執筆や原稿の翻刻に携わった経験があったため、スムーズに計画が進行した。科学研究費助成事業「荒地派の未発表作品収集及びその歴史的意義の解明に関する研究」(課題番号:23K12091、研究代表者:山下洪文、研究期間:2021年4月~2023年3月)で築いた学問的基礎が、本研究において活かされたと言えるだろう。『江古田文学』第114号の刊行に際しては、上田薫先生(日本大学芸術学部教授)に適切なアドバイスをいただくとともに、実存主義の入門書とも言うべき論文「実存主義序論――幻影として生きる人々」を執筆していただいた。こうしたサポートの存在も、本研究が順調に進展した理由の一つである。従来の研究計画では、学術叢書『実存文学』第三巻を刊行する予定であった。戦火の時代に世を去り、後の荒地派に決定的影響を与えた詩人・牧野虚太郎と、詩誌『ロシナンテ』に新しい戦後詩のかたちを刻みながら、偶然の事故で死んだ詩人・勝野睦人の二大特集を予定していたが、果たせなかった。これについては、次年度以降に刊行する予定である。今年度は『実存文学Ⅲ』の刊行は果たせなかったものの、『江古田文学』第114号を初めとする成果をあげている。おおむね順調に進展していると考える所以である。
令和5年度は、『江古田文学』第114号で「日本実存主義文学」を特集した。高山樗牛から飯島宗享に至るまでの我が国の実存主義の系譜を辿るとともに、実存の今日的意義を探るべく、詩と自作解説集や「実存主義文学事典」と題したキーワード事典を、日芸の卒業生・学生とともに執筆した。ここでは、「日本実存主義文学」の総体の把握と、「実存」の現在地を示すことに、力点が置かれていたと言える。令和6年度は、『実存文学Ⅲ』(未知谷より刊行予定)を牧野虚太郎・勝野睦人の二大特集で刊行する。牧野については、単行本未収録の詩篇・エッセイを多数収集・翻刻している。勝野については、詩集・書簡集の翻刻を完了しており、生前の知己へのインタビューも実施した。残りの校正作業を完了次第、世に出す予定である。また、『江古田文学』で好評だった「実存主義文学事典」を単行本にする企画が進行中である。雑誌掲載時は「あなた」「イロニー」「インチキ」等の四十項目であったが、これに数十個のキーワードを追加する。「読んで迷える事典」をキャッチフレーズに、『実存文学事典』として刊行する予定である。「強制収容所」「受難」「名前」「笑い」といった、他のキーワード事典にない、特色ある項目が執筆済みである。以上のように、今後の研究においては、日本実存主義文学の総体的研究から個別の詩人・作家・哲学者への深いアプローチがなされてゆく予定である。研究成果の発表には、書籍だけでなく、実存文学研究会公式サイト(https://www.jitsuzonbungaku.com)も用いてゆく。以上が、今後の研究の推進方策である。
本来は印刷製本費80万円を『実存文学Ⅲ』刊行に使う予定であった。令和5年度は『江古田文学』第114号(特集・日本実存主義文学)に傾注したため、これを果たせなかった。令和6年度の研究計画においては、『実存文学Ⅲ』及び『実存文学事典』を刊行予定である。今回余った経費は、これらに用いる予定である。
日本大学芸術学部の卒業生・学生を集めて結成した「実存文学研究会」の公式サイトである。中田凱也(日本大学大学院芸術学研究科博士前期課程文芸学専攻一年生。日本大学豊山高等学校・中学校講師。実存文学研究会会員)の協力により制作された。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 備考 (1件)
日本大学芸術学部芸術研究所紀要
巻: 121 ページ: 31-50
藝文攷
巻: 29 ページ: 131-144
江古田文学
巻: 43(2) ページ: 231-319
巻: 43(2) ページ: 215-230
巻: 43(2) ページ: 181-213
巻: 43(2) ページ: 12-180
https://www.jitsuzonbungaku.com/