研究実績の概要 |
本研究は、音声学において今後発展的に研究が行われることが期待され、その挙動や定義が現時点で完全に明らかとなっていない2つの主要な特性「母音のフォルマント移動と緊張性」に関するものである。緊張性については、これまで緊張及び弛緩の2通りに区別されて離散的に議論されることがほとんどであり、いかなる言語においても定量的尺度による定義はこれまでに存在していなかった。 研究代表者はこれまでに、緊張性の指標を第1フォルマント周波数の角度θ1とし、母音の緊張性を「緊張又は弛緩」の2通りで区別するのではなく「連続的な数値」で定量化できることを明らかにしている。したがって本研究は、言語学における母音の緊張性に関する初めての定量的および包括的な研究という位置づけとなる。 本研究の目的は、上述の手法を用いてすべての英語母音が示す緊張性の定量化を行い、その挙動を明らかにすることである。 現時点での観測結果は、英語母音/ae/,/A/に関するフォルマント角度θ1は、統計的に有意差のある母音の緊張性の指標の一つとして捉えることができることを示唆している。石崎(2022, 2023)は、英語の緊張・弛緩母音/i/,/I/及び/u/,/U/に関するフォルマント角度θ1が同様に統計的に有意差のある母音の緊張性の指標の一つとして捉えられることを既に主張しており、フォルマント角度θ1は上述の母音を音質の観点で区別する上で重要な物理量であると考えることができる。したがって「フォルマント角度θ1の1次元マップ」は、英語母音/ae/,/A/の発音教育に関するコンピュータ支援(CALL)やe-learningで使用可能となる、新たな音声学的な特性のデータとなり得るといえる。 上述の観測結果およびその検証を通して、日本語話者向けの英語母音/ae/,/A/の発音手法の検討及び実践的検証を進めているところである。
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