研究課題/領域番号 |
23K12166
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
季 鈞菲 関西学院大学, 言語教育研究センター, 講師 (60965507)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 仏典音義 / 可洪音義 / 玄応音義 / 慧琳音義 / 中古音 / 重紐現象 |
研究実績の概要 |
今年度の研究実績は以下の通りである。 1、前半は今まで整理したデータを利用して、『可洪音義』に関連する口頭発表(「重紐現象的歴時性研究(重紐現象の通時的研究)」、2023年5月、マカオ理工大学にて)を一回行い、そして論文(「中古止攝重紐韻唇音字演變特徴初探(中古止攝重紐韻唇音字の変遷上の特徴に関する初歩的研究)」、2024年2月、『関西学院大学外国語紀要人文科学編』Vol.28 pp.189-208)を一本公表した。 2、後半は『可洪音義』における『玄応音義』に関連する引用情報を整理し、為一(前六巻、『大般若経』から『仏説太子須大拏経』まで)の整理結果をまとめ、口頭発表(「《可洪音義》所引《玄應音義》再考(『可洪音義』に引用される『玄応音義』についての再検討)」、2024年3月、神戸市外国語大学にて)を一回行った。 3、全年度の作業として、『可洪音義』の各バージョンを集めて比較しながら、全書のデータベースを適宜改善を加えながら構築している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は当初、以下の三つの目的が設定されている。1、『可洪音義』のデータベースの構築;2、『可洪音義』における「首音」の層別解明;3、出典明記で引用された文献の実態解明。 2023年度には、「首音」の層別解明はまだ展開していないが、資料収集、データ化、修正、分析などの作業を経て、データベース(反切総覧)の骨組みを作成している。これらに基づいて、2024年度に成果物を書籍化することが可能である。また、目的3については、2023年度には引用の量が一番多い『玄応音義』に関連する引用の調査を終えて、その成果の一部を研究会で一回発表を行った。2024年度に当該部分を完結させ、ほかの引用文献の調査を展開する予定である。 以上に基づいて、おおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は以下の通りに推進する予定である。 1、『可洪音義』に引用されている『玄応音義』の実相と層別を究明する。いわゆる「経音義」という書名で引用されているものの中には、『玄応音義』由来のものもあれば、それ以外のものもあると考えざるを得ないものもある。また、「応和尚」などの形式で現れる『玄応音義』由来であることを明示した引用と「経音義」型引用の中に見られる『玄応音義』と一致する音注、釈文が如何なる関係にあるのか、これを究明することを2024年度に推進したい。 2、『可洪音義』における『慧琳音義』の引用の可能性を検討する。従来の研究では『慧琳音義』を引用した可能性については詳しく検討されていない。しかしながら、筆者がこれまで整理したところでは、『可洪音義』前六巻における「玄応音義」型引用と「経音義」型引用において、『慧琳音義』の義注または反切の字面と一致するものが僅かだが、存在している。また、『可洪音義』の成立時間より五十年くらい遅れた遼の行均の『龍龕手鑑』(997年に成立する)において明らかに『慧琳音義』を引用しているため、戦争などの原因によって『慧琳音義』の流布が妨害された事実もあるものの、全く引用しなかったことはやや不思議に考えられる。そのため、全面的に『慧琳音義』を書名を提示せずに引用した可能性について検討することをも2024年度に推進したい。 3、『可洪音義』の反切総覧を作成する。最も重要な仏典音義として、『玄応音義』、『慧琳音義』、『希麟音義』は既に上田正氏によって反切総覧が作成されている。他に『玄応音義』には周法高氏、『慧琳音義』には神尾弌春氏のものもある。しかし、量的には最大な『可洪音義』は、まだ反切総覧は作成されていない。研究報告の一環として、今まで整理したデータに更に分析を加えた上で、2024年度に『可洪音義反切総覧』(仮書名)を作成する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度には主に資料の収集、データの分析などの文字面の作業に専念したため、海外の学会に参加する回数が少なかった。そのため、旅費の部分に一部の次年度使用額が生じた。 2024年度に、2024年度の助成金と合わせて、今までの研究成果の海外発信に活かしたいと思っている。
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