研究課題/領域番号 |
23K12176
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
林 愼将 南山大学, 国際教養学部, 講師 (00908171)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 生成文法 / コピー / 移動 / スクランブリング / 寄生空所構文 |
研究実績の概要 |
本研究は、人間言語に見られる移動現象にどのような制約が働いているのかを、Chomsky (2021) の提案するコピー形成操作の観点から追求するものである。 初年度の2023年度は、大きな研究テーマとしては日本語のスクランブリング現象に焦点を当て、なぜ日本語ではスクランブリングとそれに基づく自由語順が許されるのかを説明した。具体的には、スクランブリングには格が必要であることに着目し、格付与子とKase主要部Kとの間にコピー関係が与えられることで、Kが主格、目的格等として具現化すると提案した。この提案の下では、格が与えられるとそれは格付与子の下位のコピーとみなされる。格を持つ要素が文頭にスクランブリングにより移動した場合、構造に対してラベル付けのための最小探査が適用すると、格を持つ要素はKが持つ下位のコピーステータスにより構造全体のラベル決定に参与できず、もう一方の要素がラベルとなることが導かれる。Chomsky (2013, 2015) のラベル理論の枠組みにおいては、適格な移動およびラベル付与のためには移動した要素が移動先で一致を示すことが必要とされ、一致の無い日本語がどのようにラベルの要件を満たすのかが不明だったが、本研究は日本語に対して適切なラベル付けの方法を提案した。更に、この分析によりスクランブリングにおいて格が義務的であることや、主語のスクランブリングが不可能であることも説明した。 スクランブリングの他には、英語の寄生空所構文の特性をコピー形成操作を用いた説明を試み、先行研究で指摘されている様々な寄生空所構文の特徴が自然な形で帰結されることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
単にスクランブリング現象を分析するだけでなく、以下に挙げるように理論全体への大きな貢献となり得る発見があった。i) コピー形成操作がラベル理論の中でどのように働くのかを考察する中で、ラベル理論ではこれまで考えられてこなかった形のラベル付けの可能性を提案できた。また、ii) 主語のスクランブリング不可能性を分析する中で、指定部-主要部一致現象がコピー形成の観点から引き出せる可能性にたどりついた。この可能性を追求することで、一致現象を新たな観点から説明できることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
2年目に当たる2024年度は、主語と目的語の非対称性を中心に、wh演算子の移動の制約をコピー形成操作の観点から調査する。2023年度に着手した寄生空所構文の分析は主に付加詞のものを扱っていたが、これを手掛かりにしながら主語の寄生空所構文を分析することからはじめ、主語のwh演算子の移動一般の制約を調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね予定通りに予算執行はできていたが、年度末に購入する予定であった物品の購入が間に合わなかったため、次年度使用額が生じた。予定していた物品の購入は2024年度に購入する。
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