研究課題/領域番号 |
23K12190
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
市地 英 弘前大学, 教育学部, 助教 (50964615)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 平仮名字体 / 往来物 / 近世 / 六諭衍義大意 / 商売往来 |
研究実績の概要 |
2023年度は、(1)六諭衍義大意諸本の平仮名字体の調査、(2)商売往来諸本の資料選定を目標とした書誌調査を進めた。 (1)六諭衍義大意諸本の平仮名字体の調査では、享保7年『官刻六諭衍義大意』をはじめ、天保5年『六諭衍義大意抄』、天保14年『六諭衍義大意 全』、嘉永6年『六諭衍義大意』の平仮名字体を調査し、その種類や使用数の傾向を比較対照した。この結果、享保7年『官刻六諭衍義大意』は同時代に出版された浮世草子と同程度に平仮名字体の種類数が使用されていると分かった。しかしながら、近世後期の六諭衍義大意三本では、平仮名字体の使用種類数が同時代の通俗文学作品に比して、かなり多い水準にあると分かった。享保7年以降、時代を下っても、徳川吉宗が広めた庶民教書としての資料的性格が引き継がれ、平仮名字体の種類においても高い水準の教養を求める往来物であり続けたのではないかと推測している。 (2)商売往来諸本の資料選定を目標とした書誌調査を行った。国書データベースで画像閲覧可能な商売往来諸本から、出版年が明確なものを選定し、時系列順に整理している。資料の状態確認や文字の読み取りが困難な画像については、商売往来の平仮名字体の推移を確認するために有用だと考えられる資料ならば、所蔵元に赴いて原本を確認した。 (1)の研究成果は、通俗文学作品の平仮名字体の種類が減少傾向にあるとされる近世後期において、平仮名字体の使用種類数が享保7年頃の水準であり続けた往来物の存在を具体的に示したものである。平仮名字体の使用種類数が減少という通時的変化に関して、近世当時の書物のジャンルや受容層のリテラシーを考慮する重要性が、より鮮明になったといえる。商売往来諸本の平仮名字体の調査を進めた際の比較対照にも有益なデータになると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究における主要な調査資料である商売往来諸本について、2023年度中に調査資料の選定が終わらなかった。国書データベースで閲覧できる商売往来諸本の書誌情報そのものが1180件と膨大であり、かつ、同一タイトルに別の異本が紐づけられているなど、商売往来諸本の組織化が完全ではないことから、思うように進まなかった。このため、出版年が明確で、保存状態のよい商売往来諸本の影印・画像の入手に時間がかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、引き続き、商売往来諸本の書誌情報の整理を行う。正確な平仮名字体の通時的変遷をとらえるためには、時系列上に資料を選定する作業が欠かせない。書誌情報や、影印・画像が確認できる商売往来諸本の全体像を把握し、調査資料の選定を行う。このうえで、平仮名字体の使用総種類数と、各平仮名字体のIPAmj明朝を用いたテキストデータによる使用数の計上を進め、使用実態の調査を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
商売往来諸本の資料選定が思うように進まなかったため、資料複写に使用する計画だった助成金が余った。次年度に商売往来諸本の資料選定を済ませ、必要な資料を取り寄せる費用に使用する計画である。
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