研究実績の概要 |
今年度は質的研究として、先行研究の議論を踏まえ、これまで行ってきた英語動詞派生前置詞の研究で得られたデータについて理論的再検討を行った。その一端として、周辺部(小野寺編 2017; Traugott 2017) の観点から考察を試みた。周辺部 (periphery) とは発話の冒頭と終端に関する概念である。先行研究では、文法化した動詞派生前置詞consideringに関し、発話の冒頭である左の周辺部 (left periphery, LP) の位置に生起する割合が高いことがわかっている(cf. 林 2015)。一方、右の周辺部 (right periphery, RP)、つまり節の最後に生起する副詞的なconsideringは、Kawabata (2003) によると、話し言葉で好まれ、文法化したconsideringが主観化 (Traugott 1995) したものと議論されている。この現象は、早瀬 (2016) において(間)主観化の関係から議論がなされている。本研究ではこれらの先行研究の議論を応用し、右の周辺部に生起するincludingの副詞的用法が聞き手・話し手の(間)主観的なコミュニケーション上の機能を担っていることを論じた (cf. Traugott 2003)。 次に、量的研究に関わる先行研究の渉猟を進めた。近年、大規模言語モデル (Large Language Model, LLM)やデジタル・ヒューマニティーズ (Digital Humanities, DH) が注目されている。これらの進展は、情報処理、インターネットに関わる技術向上と普及が背景となっている。一方、人文系の分野においては、文献・データの整理について、従来より実践知が蓄積されてきた。これらに関して、古典的なものから時系列順に整理し、近年の潮流との関わりを議論した。
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