本研究は近世大名居城の空間分離構造のなかでも、大名とその側妾・庶出子の生活空間であった奥向に注目し、その構造や構成員に関する一次史料の調査・収集を行い、基礎的分析を行うものである。 当該年度は、近世大名家の居城奥向の構成員について、17世紀後半から18世紀初頭にかけての妻妾制の変化と関連づけて検討した。特に米沢上杉家を事例として、17世紀後半における京都出身女性の国許下向と大名実母としての処遇を分析し、当該期の特質を検討した。この成果については、2023年度日本史研究会大会近世史部会研究共同報告で報告し、「近世中期における大名家の婚姻と幕府」として公表した。また、居城奥向構成員に関する論考を含めた単著『近世大名家の婚姻と妻妾制』を刊行し、研究成果を広く公表することができた。 居城奥向における京都出身女性については、秋田佐竹家についても史料読解を進めた結果、17世紀後半まで存在していたことがわかった。この点については、さらに史料調査を進め、次年度以降、成果を公表する予定である。 当該年度には、幕末における居城奥向に関する史料調査にも着手した。幕末における参勤交代制の緩和によって、大名家族は国許下向を許可されたが、それによって居城奥向で生活する構成員が増加したため、奥向が拡充されるといった変化がみられる。居城奥向の分析において、こうした幕末期における拡充と廃藩置県後の縮小、消滅を検討することが重要であると考え、秋田佐竹家を事例として調査を開始した。次年度以降、大名家族や奥女中、広敷の男性役人に関する史料の調査、収集を進め、その成果を公表する予定である。
|