研究課題/領域番号 |
23K12274
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研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
高田 雅士 駒澤大学, 総合教育研究部, 講師 (00876261)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 国民的歴史学運動 / 民話運動 / 民話の会 / 史学史 / 文化運動 |
研究実績の概要 |
研究1年目は、下記の業績を発表することができた。 まず、本研究課題のコンセプトについては、「歴史学の境界を揺さぶる実践―国民的歴史学運動が目指したもの―」(田中聡・斎藤英喜・山下久夫・星優也編『〈学知史〉から近現代を問い直す』有志舎)という論文を発表することができた。この論文が発表されたことにより、本研究の今後の方向性を示すことができたと考えている。 そして、民話運動については、「1950年代の民話運動と歴史学―第1期『民話』の分析を中心に―」(『駒澤日本文化』17号)を発表することができた。この論文では、「民話の会」が発行していた会誌である第1期『民話』を分析することによって、1950年代の同会による活動の一端を明らかにすることができた。 運動のなかにおける紙芝居の実践については、2023年12月3日に早稲田大学で開催された歴史科学協議会第57回大会において、「1950年代前半の歴史学と大衆文化―国民的歴史学運動における紙芝居の実践を題材に―」という報告をおこなった。具体的には、民主主義科学者協会奈良支部による紙芝居「土の唄」の実践をめぐる分析である。この報告の内容は論文化もされ、2024年6月刊行の『歴史評論』890号に掲載される予定である。 2024年2月3日にオンラインで開催された現代民俗学会第72回研究会では、「運動のなかの「表現と身体」―黛報告・伊藤報告へのコメント―」という報告をおこなった。これは、「伝統芸術の会」を対象とした黛友明報告、「わらび座」などの活動を対象とした伊藤純報告に対して、歴史学の立場からコメントをおこなったものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、国民的歴史学運動のなかで展開された「民話の会」などによる民話運動について論文にまとめることを当初の課題としていたが、それを達成することができた。さらには「大阪民話の会」など、地方で展開された民話運動の実態分析についても見通しをつけることができた。このことも重要な成果であると考えている。また、民話運動についての調査・分析を進めるなかで、この運動に重要な役割を果たした木下順二や松島栄一などの1950年代における位置づけについても理解を深めることができた。 そして、運動のなかにおける聞き取りや紙芝居の実践など、オーラルやビジュアルの史料に当時注目が集まっていたことについても検討を進めることができた。国民的歴史学運動から広がっていった世界について、歴史学以外の学問領域からも接近するなかで、現在注目が集まっているパブリック・ヒストリー論にも寄与することが可能ではないかと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
東京を活動の拠点とする「民話の会」については論文にまとめることができたが、今後は大阪を活動の拠点とした「大阪民話の会」について調査を進めることで、地方における民話運動の展開について明らかにしたいと考えている。 また、国民的歴史学運動のなかで生み出されていった「民族芸術を創る会」や「伝統芸術の会」などの活動についても調査を進めていきたい。「民族芸術を創る会」については、早稲田大学の演劇博物館や神奈川近代文学館などで関係資料の調査・収集を進め、「伝統芸術の会」については、同会が発行していた機関誌『伝統芸術』の分析を進めていく予定である。 さらに、歴史学研究会や民主主義科学者協会歴史部会を活動の拠点として活躍した歴史学者・松島栄一の演芸論についても論文にまとめる見通しである。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来であれば、現地調査を複数回実施する予定であったが、その回数を充分に確保することができなかった。そのため、次年度は現地調査を計画的に実施することによって、経費を執行する予定である。
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