研究課題/領域番号 |
23K12275
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
古畑 侑亮 一橋大学, 大学院社会学研究科, 研究補助員 (10906902)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 井上頼圀 / 井上淑蔭 / 天文学史 / 教導職 / 神道 / 偽文書 |
研究実績の概要 |
初年度である2023年度は、國學院大學の母体である皇典講究所の創設に携わった井上頼圀(1839~1914)に関する情報を蒐集するとともに、アカデミズムの学者とも関わりの深かった在野の国学者・井上淑蔭(1804~1886)の書簡や著作の調査を行い、明治期における国学ネットワークの研究を始動させた。 第一に、同時代から現代にまで至る刊行物における頼圀に関する記事を蒐集した。『朝日新聞』をはじめとした新聞記事の蒐集と分析によって、頼圀の知られざる一面が明らかになりつつある。併せて、頼圀を扱った論文や著作を蒐集し、先行研究における到達点も確かめることができた。 第二に、井上淑蔭の著作の翻刻と分析を行った。具体的には、西洋天文学に対して論駁を加えた『内外異同弁』、教導職として国民教化を行うために三条教則に関するテキストを集めた書入本『神教要旨略解』、神道についての理解を語った『皇道唯一論』、言語について持論を語った『訓点考』などである。とくに『内外異同弁』については対照の結果、先行して分析していた『国学徴』第3篇のもととなった原稿であることが判明した。 第三に、日本史研究会および幕末明治期の暦の思想史研究会において研究発表を行った。本研究の方法と成果について参加者と議論することで、来年度への展望を開くことができた。 第四に、アシスタントの協力を得て単著の校正作業を進めた。年度後半はこちらに作業時間をとられることとなったが、2024年2月に『コレクションと歴史意識―十九世紀日本のメディア受容と「好古家」のまなざし―』として無事刊行することができた。とくに本プロジェクトと関わりの深い章については事実関係の精査を行い、新たな知見を盛り込むことができた。さらに、本書の刊行準備により、国学ネットワーク研究の新たな地平が見えてきたことも今後のプロジェクトにつながる大きな成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、頼圀の子孫から國學院大學へ寄贈された「井上氏旧蔵資料」の公開を目指し、その細目録の作成を軸にプロジェクトを進める計画であったが、同資料群の公開に問題があることが判明した。そこで、「井上氏旧蔵資料」の周辺からアプローチする方法に切り替えた。 本務先の異動が重なったこともあって態勢の立て直しに手間取り、埼玉県立文書館への出張調査は十分に行うことができなかった。しかし、資料翻刻については新たに雇用したアシスタントの協力を得て確実に進めることができた。 一方で、日本史研究会の中世史部会より依頼を受け、2025年度に実施予定であった同会例会での報告を前倒して実現することができた。当日は、中世史や近世文学の気鋭の若手研究者とともに報告を行い、コメンテーターをはじめ参加者からも有意義な意見をもらうことができた。例会のテーマとなった偽史・偽文書については、以前から関心を持ちながらも自身の研究で正面から扱うことはなかったが、今日的問題を含めそれらについて縦横に議論することで、本プロジェクトにもつながる多くの示唆を得た。さらに、幕末明治期の暦の思想史研究会からも依頼を受け、国学者による天文学研究と西欧学知に関する発表を行った。国学・神道・仏教・儒教それぞれの分野の専門家よりコメントをもらい、今後の研究へ向けての指針を得ることができた。 全体として出張調査には課題を残したものの、成果の発表については当初の計画以上に達成することができたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
予算を多く配分した2024年度は、出張調査に力を入れる。埼玉県立文書館をはじめ、熊谷市立図書館や東京都立中央図書館など関東近郊の図書館や大学への出張調査を実施する。また、再び本務先が異動となったため、謝金ないし雇用の形で改めて5名の大学院生に研究補助を依頼する。彼/彼女らの作業をサポートしながら淑蔭の書簡・著作の翻刻・分析を進める。 前年度に日本史研究会にて発表した成果については、先行研究や方法論を精査した上で「研究展望」として『日本史研究』に投稿する。 また、これまでの調査を踏まえて井上頼圀と交友の深かった人物をあぶり出し、そのコレクションの調査に赴く。具体的には、小中村清矩や木村正辞といったアカデミズムに所属した国学者、頼圀の師である権田直助や府中大國魂神社の猿渡容盛ら各地の地域神職等を想定している。 さらに、9月に予定している学会報告にて井上淑蔭の教導職としての知識形成とネットワークについて発表し、本研究の試金石とする。加えて2024年度は、複数の博物館において講演会を予定しており、それらの場においても研究成果の社会還元を目指す。
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