本研究課題は、近代日本において買売春営業に関する管理・介入の方法がいかに決定されていったのかを、売春営業の実態・経時的変化を踏まえて分析するものである。 研究初年度にあたる本年度は、研究対象地域である愛知県について分析すべく、若干の史料調査を行った。その中で、本研究課題申請前から検討してきた愛知県名古屋市旭遊廓の移転問題に関連して、内務省の介入が確認できる事例の分析を進めている。これは、1912(明治45)年に出された県令により、旭遊廓の移転が指示されたことに始まる騒動を分析対象としている。旭遊廓の移転をめぐっては、移転の決定以前から移転先の議論が百出しており、多くの関心を集めていた。しかし、実際の移転が決定した直後、移転先をめぐる贈収賄疑惑が発覚する。そのため、従来では極秘裏に進められていた遊廓移転先の決定過程が明るみにでることになった。その中では、旭遊廓に先行して移転した熱田遊廓の移転先が、どのようにして決定されたのかについても言及されており、内務省がしきりと注意を加えていることが分かる。以上から、愛知県当局の計画に対して内務省が指示を与えていたこと、県当局側も遊廓――公娼制度に関する変更は内務省への稟申・許可を得なければ決定できないと認識していたことが分かる。 以上は、愛知県における一事例であるが、これだけをとっても県当局と内務省の間で密接な連携があって初めて、公娼制度に関する変更が可能になることが分かる。従来、公娼制度の管理は各府県の管轄内であると理解されているが、その背後にある内務省の存在は決して無視することができないものである可能性が指摘できる。
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