研究課題/領域番号 |
23K12308
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研究機関 | 国立歴史民俗博物館 |
研究代表者 |
山下 優介 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 助教 (90909615)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 土器 / 弥生時代 / 古墳時代 / 胎土分析 / 関東地方 / 土師器 |
研究実績の概要 |
弥生・古墳時代移行期の関東地方に認められる外来(系)の土器が他地域からの搬入品であるか検討した、「土器胎土に関する分析成果」の集約・整理を通じて搬入品の器種や量などの情報を客観的に示し、古墳時代初頭の関東地方における外来(系)の土器が集団の移住行為によってもたらされたのか総合的に検証することが本研究の目的である。目的達成のため令和5年度は第一に、基礎調査にあたる関東地方1都6県の遺跡出土土器の胎土分析例を集成した。弥生時代と古墳時代の土器に対する胎土分析例を集成して、遺跡名や所属時期、出土遺構、器種、分析手法、分析者などに関する情報を網羅した一覧表の作成を進めた。データベースは課題完了後に、web上で外部へ公開することで本研究の成果を他の研究者も利用できるようにする計画である。 遺跡出土土器胎土の分析は、発掘調査報告書などで調査報告の一部として公表される例も多く、分析手法として普及しているといえる。しかし、各分析者の方法が異なることでデータの一般化や対比が不可能であるといった問題によって、成果が集約されていない。申請者の研究は、古墳時代初頭の東日本への集団的な移住の有無という、学史的に重要な問いに対して、蓄積が進む土器胎土の分析成果から解答を導こうという試みである。分析方法のちがいを理由に参照しないという旧来の立場から視点を変え、複数の胎土分析成果を集約するという方法を採ることで、停滞した議論をいま一度進展させようとする新たな試みであり率先して取り組む意義が大きい。 分析成果の集約とあわせて、申請者自身も複数の分析に取り組むことで分析結果の比較を進めた。本年度成果として第二に、東京大学構内遺跡(文京区No.47遺跡)出土の弥生時代中期や後期、古墳時代前期や中期の土器の岩石学分析や蛍光X線分析による胎土分析を行った。その結果、胎土の異なる土器を客観的に明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題が令和5年度に実施を計画していた①関東地方1都6県の遺跡出土土器の胎土分析例の文献調査および、②東京大学構内遺跡(文京区No.47遺跡)出土弥生時代や古墳時代土器を対象とした胎土分析の一部を実施できたことで、おおむね順調に進展しているといえる。しかし、本年度の初頭に申請者の所属が変更になったことを理由に、分析対象資料の利用のしやすさなどに関して計画時とは異なる状況が生じ、予期していない労力が必要となる場合があった。具体的には、本研究で代表的な分析対象資料としている東京大学構内遺跡(文京区No.47遺跡)出土土器は前所属機関である東京大学埋蔵文化財調査室が保管する資料であるため、これらの調査・分析に際して出張が必要となったことは予定と大きく異なった。その一方で、所属の変更にあわせて日常的な業務が変わり、本課題をより優先できる環境が得られたため、出張の必要によって研究の進展が妨げられることはなかった。このような所属先環境の変更により、令和6年度に実施を計画していた一部の胎土分析が令和5年度に実施できたことは予想以上の進展であった。 また、前所属の環境で実施する計画であった、単純労務従事者を雇用しての分析例集成に伴う文献調査は、人員を同様に確保して作業を実施することは困難であった。しかし、現在の所属先には文献調査で必要とする発掘調査報告書などの書籍が豊富に所蔵されており、文献調査を申請者自身によって効率的に調査を進めることができたため、進展の妨げにはならなかった。以上の状況をふまえて、本研究課題はおおむね順調に進展していると総合的に判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、令和5年度に実施した集成研究ならびに土器胎土の分析の継続および補完的研究と、本研究課題の総括に取り組む。 第一とした集成研究では、関東地方1都6県の遺跡出土土器の胎土分析例集成を完了し、データベースを完成させる計画である。その作業と並行してデータベースをweb上で外部へ公開する準備を進め、課題完了後に速やかに公開できるようにする予定である。 第二に挙げた東京大学構内遺跡(文京区No.47遺跡)出土土器を対象とした胎土分析に関しては、令和5年度に実施できなかった中性子放射化分析など、一部の外部委託による分析を実施し完了する予定である。 また、第三に挙げた補完的研究としては、土器の搬入元に想定される地域の資料と東京大学構内遺跡出土資料との比較検討を進める計画である。令和5年度に実施した胎土分析によって胎土の異なる土器を客観的に示すことができたが、その搬入元を特定するための分析は十分ではない。他地域の遺跡出土土器の分析に基づいて搬入元を明らかにすることができれば、東京大学構内遺跡出土土器の胎土分析結果を補強するだけでなく、関東地方へ搬入された土器が具体的にどこから運ばれてきたのかという将来的な疑問解決の糸口となる発展的な取り組みになるだろう。 以上の第一、第二、そして第三の作業・分析を通じて得られた、2か年にわたる本研究の成果を総括し、研究の目的を達成する。古墳時代初頭の関東地方で認められる外来(系)の土器のうち、どのような器種が、どの程度の量、他地域より搬入されてきたのか、客観的なデータを示して明らかにし、これらの土器がもたらされた背景として集団の移住行為を推定することが妥当であるのか総合的に検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由の1点目として、最も多額の支出を予定していたデータベース作成に伴う資料整理のための単純労務従事者雇用に係る人件費の使用が少なかったことがある。このことは「現在までの進捗状況」に記載したように、申請者の所属が年度初めに変更になったことが原因である。前所属の環境で雇用予定であった人員を同様に確保して作業を実施することが困難であったため、人件費の支出が予定より大幅に下回った。次年度は、現在の所属で新たに労務従事者を雇用できる見通しがあるため、2か年を通じて予定する人件費分の作業を実施できる計画である。 理由の2点目として、研究課題計画時には令和5年度に実施予定であった外部機関へ委託する土器胎土に対する中性子放射化分析を、次年度の実施に変更したことがある。これは、申請者の所属変更により分析資料への接続状況が変更を余儀なくされたため、今年度は分析対象資料の事前調査等のための出張を優先したためである。しかし、今年度終了時には事前調査等もほぼ完了したため、次年度は速やかに外部機関へ分析を委託する予定である。 以上のとおり、未実施の項目に関しては既に実施の見通しが立っているため、2か年を通じて助成額全体の使用が見込まれる。
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