研究課題/領域番号 |
23K12355
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
大泉 陽輔 岡山大学, 社会文化科学学域, 講師 (90882043)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 日本法制史 / 児童虐待 |
研究実績の概要 |
本研究は、戦前期児童虐待防止法制の形成過程および実施状況を、諸アクターの運動・議論を解きほぐすことで明らかにするものである。 1年目である2023年度は、昭和8年児童虐待防止法(1933年4月1日法律第40号)(以下、「昭和8年法」と略称)の実施状況についての史料の収集を中心に研究を進めた。具体的には、昭和8年法の適用件数や国・府県の予算額の推移、被虐待児童保護施設の実像、昭和8年法の意義や課題に関する論説を調査した。 先行研究では専ら東京府下の実施状況について研究されてきたが、本研究では地方行政文書などこれまで十分に目を配られることのなかった素材をも検討対象に含めている。これらの作業を通じて、戦時体制の進行によって虐待防止事業が軽視されるようになったという先行研究の示す図式が一面的であるとの見通しが得られた。加えて、各種統計や保護施設の関係者の著作、文芸作品などから、被虐待児童保護の現場における営為や問題意識を析出できた。他方で、昭和8年法の実施をめぐる諸アクターの動向と相互作用、そこに現れた子ども観の様相は次年度以降の検討課題である。 併せて、親権喪失請求事件にかかるものを中心として親権に関する戦前期の裁判例の収集もおこなった。その多くは大審院裁判例であるが、入手できる範囲での下級裁判所裁判例のほか、往時の司法における親権理解をより立体的に明らかにするために台湾総督府法院の裁判例の収集も進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初想定していた以上に素材となり得る史料が多く見つかり、当年度中にまとまった形での成果を挙げることができなかったため。もっとも、史料収集自体は順調に進められており、次年度以降にこれまでの検討作業で得られた知見の総合・論文化をおこなう予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2年目である2024年度は、2023年度に引き続き昭和8年法の実施状況に関する検討をおこなう。特に2023年度に十分調査することができなかった貧困児童保護法制との関係に重きを置きつつ検討を進める。 続いて、昭和8年法の実施がそれまでに現れた被虐待児童保護の要請を充たすものであったかを明らかにするために、昭和8年法制定までの諸アクターの保護事業・論説・立法に向けた議論経過などを分析する。 加えて、親権関係事件の裁判例の収集を2023年度に引き続いておこない、その特徴や変遷を分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
インターネット上で利用できる史資料が当初想定していた以上に多く見つかりその調査に時間を使った分、次年度に回す文献購入や出張が生じたため。
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