研究課題/領域番号 |
23K12385
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研究機関 | 大阪経済法科大学 |
研究代表者 |
大関 龍一 大阪経済法科大学, 法学部, 准教授 (20822274)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 刑法 / 因果関係論 / 危険の現実化 |
研究実績の概要 |
本研究は、危険の現実化論の沿革に遡った検討を通じて、その理論的根拠を明らかにしたうえで、判断構造の明確化および実践的な判断枠組みの構築を目的とするものである。この目的を達成するため、①ドイツ法・英米法に遡った危険の現実化論の系譜調査、②日独の学説比較を通じた理論的基礎の探究、③2つの判断モデル(総合考慮モデルと現実・予測照合モデル)を分析軸とした判例検討という3つの具体的課題を設定した。 初年度である2023年度は、主に①の系譜調査に取り組んだ。まず、日本における危険の現実化論の嚆矢は井上祐司の研究に求められるところ、同研究で援用されたエンギッシュ(ドイツ法)およびハート=オノレ(英米法)の著作に検討を加えた。これらの論者の理論が井上の研究を通じて間接的に危険の現実化論に影響を与えたことは確かである。しかし、現在の危険の現実化の判断モデルや日本の判例実務への影響関係・共通性を同定するには至らなかった。 もっとも、ハート=オノレの著作を通じて、英米因果関係論における多数の判例資料とその類型論に触れ、日本の危険の現実化論に応用する素地を見出すことができた。しかし、日本では、限られた最高裁判例に基づく類型論が展開されているにとどまるため、比較法的検討の前提として、判例実務における危険の現実化という枠組みの使われ方を言語化し、その類型化を改めて構築する必要性が生じた。そこで、③日本の判例検討にも先行して取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題①については、日本の危険の現実化論に対する外国法の影響関係の同定を期待したが、当初想定したような成果は得られなかった。現在の危険の現実化論は、日本の判例実務を通じて、ガラパゴス的に展開されたものである可能性が高く、外国法に遡った系譜調査の有用性については再考の必要がある。 もっとも、判例資料を用いた類型論については、比較法検討の素地を見出すことができた。また、日本判例については、近時のものを中心に、一定程度分析・検討を行うことができ、課題③を進展させることができた。そこで、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、まず日本の判例分析を通じて、判例実務の思考枠組みを言語化し、類型化と考慮要素の抽出を試みる。また、ドイツ法・英米法との類例比較も行い、日本の危険の現実化論の特殊性についても考察する。 研究成果の公表については、2024年7月に学会(刑法学会関西部会)での報告を予定しているほか、これまでの成果を論文にまとめ、投稿することを予定している(媒体は未定)。
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次年度使用額が生じた理由 |
デスクトップ型PCを購入予定であったが、異動に伴い、現所属先ではデスクトップ型PCの支給があったため、購入を控えた。しかし、次年度以降、作業効率の向上や出張先での作業の必要性に応じて、ノートPC購入を検討する必要があるため、次年度に持ち越した。 また、外国法に遡った系譜研究については当初の想定よりも成果が得られなかったため、洋書購入を当初予定よりも控え、次年度以降の理論研究の際に活用することとした。
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