2023年度の成果としては,まず最判令和5年5月19日(民集77巻4号1007頁)の評釈がある。遺言者が相続分指定,包括遺贈および遺言執行者の指定を内容とする遺言をし,後に一部の受遺者が遺贈を放棄した事案について,遺言執行者の職務権限の有無を判断した判決につき,各判旨の意義を吟味したものである。従来の研究との関係では,特に相続分指定にかかる職務権限に関して,相続させる遺言にかかる遺言執行者の職務権限につき判断した最判平成11年12月16日(民集53巻9号1989頁)の評釈からの,一つの展開という位置づけになる。平成30年の相続法改正との関係で引き続き検討を要する。もう一つ,委任法の学説史に関する作業として,「委任――委任の観念の変容とその現代的意義」が収録された小川浩三他編『キーコンセプト法学史』(ミネルヴァ書房)が公刊された。受任者の委任の引受けの無償性,引受けの自由,委任事務に際して生じた損失の負担,などをはじめとする基本的な論点に絞って,ユスティニアヌス法典を一応の出発点に,中世ローマ法からフランス古法を経てフランス民法典に至る文脈を,主要な学説および裁判例を踏まえつつ確認する作業を行ったものである。2021年に公表した「古法学説にみる委任事務の財産構造」と関連が深く,同論文の背景をなす文脈を補完する意義も有する。この学説史研究に関しては,2022年度までの科研費に基づく研究の成果でもあることは特に記しておきたい。
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