研究課題/領域番号 |
23K12726
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研究機関 | 山梨学院短期大学 |
研究代表者 |
川上 英明 山梨学院短期大学, その他部局等, 准教授(移行) (40910469)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | 京都学派教育学 / 森昭 / 久野収 / 木村素衞 / 行為的直観 / 行為的自覚 / 〈亀裂〉 / 市民主義 |
研究実績の概要 |
今年度は、文献の収集と読解を行いつつ、その成果の一部を学会大会で報告する等して、公表することができた。とりわけ、研究計画書で設定した三つのテーマのうち、(1)木村素衞に対する森昭の批判の根拠を京都学派内部の対立として捉えること、および(2)久野収の「市民主義」的な教育論の可能性を明らかにすることの二つに関する進捗があった。 (1)については、森昭が師であるところの木村素衞の「形成的表現」という概念に対して、「政治的実践」の立場から批判したことを検討した。森の批判の背景にあるのは、森のもう一人の師である田邊元が、西田幾多郎の「行為的直観」に対して「行為的自覚」の立場から批判を行ったことがあると考えられる。すなわち、田邊の西田批判と、森の木村批判との共通性を指摘することができると考えられた。実に、この二つの批判は、「藝術主義」および「ヒューマニズム」への批判という点で共通していることが明らかにされ、ここに、京都学派教育学の〈亀裂〉が走っていると考えられた。このことを指摘したことは、京都学派教育学の思想史研究に新たな視点をもたらすものとしての意義がある。 (2)については、成果の公表には至っていないものの、久野収が京都学派のみならず、フランクフルト学派、プラグマティズムなどからも影響を受けていたことや、当時の共産党員であった上田耕一郎からその思想の問題を指摘されていたこと、しかしその指摘が逆に久野の思想の現代的可能性を示唆するものであったことを明らかにすることができた。こうした視点から、改めて久野の教育論を照らすことで、彼の教育思想における「市民主義」の可能性を捉え直すことができる。このことは、京都学派の思想圏を相対化した上で、市民主義の立場から教育を論じた思想家の存在を指摘するものとして、重要な意義を有すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目に当たる今年度は、研究計画書で立てた三つのテーマのうち、(1)については教育思想史学会第33回大会での研究報告を行い、その報告原稿をもとにした研究論文が2024年度に刊行される予定である。(2)については、成果の公表には至っていないが、現在執筆を進めている博士論文をもとにした単著の原稿に付け加えているところである。そのため、この単著が刊行された際に、(2)の研究成果が公表されることになる。以上の理由から、本研究課題の進捗状況はおおむね順調と言うことができる。 なお、(3)については、本研究課題の3年目以降に実施することを予定していることから、現時点での進捗は存在しない。ただし、京都学派の教育思想という大きなテーマとの関わりでは、研究計画書では立てなかったものの、三木清の教育思想に関する研究を進めているところである。これは、(1)の成果として、京都学派教育学の内部の各論者が、それぞれに対立する立場があることを明らかにして、それを〈亀裂〉と名付けたことに由来する。京都学派という思想圏を広い視野で捉えつつ、各論者の間に走っている〈亀裂〉を見出すことは、本研究課題で挙げた人物たちのみでは到底達成できない。そこで、三木清の教育思想と、特に西田幾多郎との間の〈亀裂〉を検討することで、本研究課題がさらに立体的に発展することが見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画のうち、(1)については、2024年度に研究論文を刊行することで一区切りとなるため、その準備を進める。(2)についても、単著の刊行と同時に研究成果の公表となるので、刊行に向けた準備を進めていく。 (3)上田薫の偶然論と彼における教育と政治の関係についての考察の重なりについては、2024年度から文献の収集を始めつつ、2025年度以降に検討を本格化させたい。 さらに、当初の研究計画にはなかった三木清の教育思想については、2024年度に学会大会での報告を目指している。具体的には、「習慣」の問題をめぐって、三木と西田との共通性と差異を指摘しつつ、それが三木の哲学および教育思想にとっていかなる位置づけを有していたのかということを明らかにする。このことを通して、三木が政治や国家について論じていたことと、彼の教育思想ないし習慣論とのつながりを考えることが、新たな研究課題として浮上した。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は資料収集のための旅費や謝金などを使用することができなかったため。
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