研究課題/領域番号 |
23K12741
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
辻谷 真知子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 助教 (90906265)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | 1歳児クラス / 規範 / 発話 / 観察 |
研究実績の概要 |
本研究は保育所・幼稚園・認定こども園等の施設(以下「園」)において、園のきまりや約束事、ルール等の「規範」がどのように共有され、変容するのかを、観察・面接・質問紙調査から明らかにすることを目的としている。 本年度は保育所1歳児クラスにおける観察調査を2023年6月より実施し、二語発話がみられる時期の子どもの規範的主張(否定や禁止)に着目して、その示し方と子どもの捉え方について検討した。観察調査は登園後から午睡まで、週1回程度実施した。ビデオカメラを用いて主に二人以上の子ども同士が関わる場面を記録し、終了後に文字化した。結果として2点が示された。 第一に、物の占有に関する発話は多く見られるが、その際に名前による自称が多く使われるとともに、自称だけでなく他児の名前を用いることによって、自分が使う物と相手が使う物を区別していた。集団呼称(「みんな」)を用いることによって、他者が占有する状態から自分も使える状態にすることが可能となっていた。このように占有に関する発話で、自分の主張だけでなく相手との関係や集団の中での規範を示していることが示唆された。 第二に、3歳以上の時期における規範に関する発話のカテゴリー(辻谷, 2021)に基づき1歳児クラスでの規範の示し方を検討した結果、上記の占有に関する発話以外に、規範自体を示す発話や命令形での発話、善悪、他者への確認などが見られた。それらの規範を示す発話に関して、保育者の言葉を繰り返すだけでなく、子ども同士での模倣を伴い共有されるプロセスも示された。 以上の結果について、次年度実施の学会大会での発表および論文化を予定している。 また関連研究として、昨年度まで実施した園の規範に関する保育者の考え方についての調査をもとに分析および発表・論文化を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通りに初年度から観察調査を依頼することができ、また記録の文字化と分析も予定通りに進めることができた。調査依頼手順の関係上、実際のデータ収集は年度の最初ではなく6月であり、また観察者に対する子どもの様子を見ながら撮影可否を判断しつつ進めたため、記録できた発話の数などについては子どもにより大きく異なる。その点も踏まえ、時期による変化等に着目するためには次年度も継続しての調査が必要である。 また、調査実施の時間帯と研究者の他業務との兼ね合いで、データの解釈等についての保育者とのやりとりの時間は十分に確保できておらず、本研究の計画全体においてどのように検討していくかも含めて今後調整が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下4点の研究を予定している。第一に、本年度の観察調査を同一クラスの進級後も継続して時期による変化を明らかにすることである。この点については既に必要な手続き(協力者への説明と承諾、倫理審査承認)を経て開始している。 第二に、新規開設園での観察調査により、既存の明確な規範がない状況において、子どもと保育者によって規範がどのように作られ、変容していくのかを明らかにすることである。この点については、第一の研究の継続や結果の分析に時間を要するため2箇所の調査は難しいと判断し、翌々年度からの実施を目指す。 第三に、これまでの結果を踏まえて子ども・保育者および管理職に面接調査を実施し、規範の捉え方および関連する保育観の形成等について分析を行う。第四に、異なる園種別や形態の複数の園において保育者等への質問紙調査を実施し、規範に関連する要因を検討するとともに、それらの結果をもとに研修を行い効果を検証する。
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