研究課題/領域番号 |
23K12762
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
早瀬 博典 筑波大学, 人間系, 特任助教 (50967552)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | インクルージョン / 個に応じた学び / 社会科教育 / 社会正義 / デジタル / アメリカ / 女性 / 社会変革 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、アメリカの社会科教育(以下、社会科)におけるインクルージョン(Inclusion)を志向した学習方法の理論と実践について、「個に応じた学び(Differentiated Instruction)」の事例分析を通して明らかにすることである。そのために、①「個に応じた学び」の歴史と理論の検討、②アメリカの「個に応じた学び」の授業実践を参与観察、③「個に応じた学び」を実践する社会科教師の意識調査を行う。 本年度は①の一環として、「個に応じた学び」の前史となる1980年代アメリカ社会科のメインストリーミング方略を検討し、その成果と課題を筑波大学教育学系論集の査読付き論文「アメリカ社会科におけるインクルージョン前史-1980年代初頭メインストリーミング方略の検討を通して-」にまとめて発表した。 並行して、「個に応じた学び」の手立てとなる「デジタル」を活用した社会科の学習方法に注目し、日本公民教育学会の全国学会にて「社会科におけるバーチャル技術がもたらす「デジタル」の新たな可能性―インクルージョンを視点に― 」として発表した。またこの成果の一部は、福岡子ども短期大学の紀要で共著「社会科におけるデジタル技術の意味―その起源と展開の日米比較を通して―」にまとめて発表した。 加えて「個に応じた学び」が子どもの「社会適応」促進にとどまる限界の指摘とその克服方策を探るべく、「社会科における変革学習の意義―子どもと教師の変容を通した包摂社会への変革可能性―」を日本社会科教育学会の全国学会で発表した。 関連して、インクルージョンの対象の中でも「女性」に注目し、「アメリカ社会科におけるインクルージョン統合型人権教育の枠組み―単元「女性の教育権」の分析を通して―」を『Well-beingをめざす社会科教育:人権/平和/文化多様性/国際理解/環境・まちづくり』の一部として刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、アメリカの社会科教育(以下、社会科)におけるインクルージョン(Inclusion)を志向した学習の理論と実践について、「個に応じた学び(Differentiated Instruction)」を分析枠組みとして明らかにすることである。そのために、①「個に応じた学び」の歴史と理論の検討、②アメリカの「個に応じた学び」の授業実践を参与観察、③「個に応じた学び」を実践する社会科教師の意識調査を方法としている。 本年度は①について、論文2本、書籍(共著)1本を発表し、全国学会発表2つ、高等学校での講演1つを行なった。この過程では、最新のPCと「個に応じた学び」および「インクルージョン」に関係する書籍(日本語、英語)を国内外から取り寄せる必要があった。加えて、国内の全国学会での発表と情報収集のため、日本全国をフィールドとして移動する必要があった。 結果として得られた成果は、おおむね当初の予定通りか、わずかに上回るものである。したがって、(2)おおむね順調に進展している、を現在までの進捗状況とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、アメリカの社会科教育(以下、社会科)におけるインクルージョン(Inclusion)を志向した学習の理論と実践について、「個に応じた学び(Differentiated Instruction)」を分析枠組みとして明らかにすることである。そのために、①「個に応じた学び」の歴史と理論の検討、②アメリカの「個に応じた学び」の授業実践を参与観察、③「個に応じた学び」を実践する社会科教師の意識調査を方法としている。 現在までの進捗として①を順調に遂行している。今後は②と③を進めていくため、アメリカと日本の「個に応じた学び」を実践する教員と協働し、参与観察と意識調査を行う。 ②については、アメリカ社会科で「個に応じた学び」を組み込んだ方法論と教材集を発表している研究者にアポイントをとり、シアトルで授業の参与観察を依頼している。この研究者はアメリカ社会科の最大規模の団体、全国社会科協議会の会長を務めた人物であり、申請者は4年以上研究交流を続けている。現地の校長や教頭とのコネクションも強く、広範な実地調査の展開を期待できる。並行して、①についても最新の理論と教材の提供を依頼している。 ③については、②と同様に、交流のある研究者を通じてアメリカの小学校教師に協力を依頼しており、確約がとれた段階である。意識調査の分析枠組みとして①の成果を活用する予定であるが、できる限り最新の理論に更新するため、実地調査と並行して理論研究を深める必要がある。 以上を踏まえ今後の研究の推進方策は、①の理論検討を現地資料から深め、②と③を交流のある研究者の協力のもと、アメリカの教師による実践を対象として展開することである。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定では業務の円滑化を図るために大型モニタを購入する予定であった。しかし、経費の高騰などの社会的要因により、予定していたモニタの購入を見送らざるを得なくなった。代わりに外出時の研究業務を効率化する最新のポータブルPCと、追加の国内出張を行ったが、当初予定ほどの支出にはならず、来年度に繰り越して物価高の様子をみながらモニタ購入を検討することとした。また来年度は当初予定でアメリカ出張を組み込んでいたが、燃料費の高騰などもあり、旅費が想定よりも上がることが推測される。今年度繰り越した資金を有効活用して、海外調査の期間延長を計画している。
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