研究課題/領域番号 |
23K12773
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研究機関 | 島根県立大学 |
研究代表者 |
古賀 洋一 島根県立大学, 人間文化学部, 准教授 (00805062)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 自立した読者 / 理解方略 / メタ認知 / 読解と読書 / 論理的文章 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日常生活で継続的に読書へ取り組み、情報の信頼性や論の妥当性を吟味するための技能を活用しながら、自らの知識や価値観を更新していくことのできる「自立した読者」を育成するために、大きく二つの研究課題に取り組むことである。一つ目は、「一人読み(学習者が自分で選んだ本を読み進める活動)」を取り入れた論理的文章の授業を開発し、授業外読書への影響も含めて、その学習効果を検証することである。二つ目は、教育現場の国語科授業に「一人読み」の活動を普及していくための、国語科教師への効果的な働きかけの内容を明らかにすることである。今年度は、一つ目の研究課題を以下のように分割し、取り組んだ。 一つ目に、「自立した読者」の育成に着目した国語科教育学の先行研究を収集し、メタ的な分析を行った。多くの研究では、授業外読書への影響が視野に入れられないままに授業の効果が分析されている現状であった。「一人読み」に注目した研究も少数見られたが、海外の教育プログラムや特定の教師の授業の解説に留まっていた。「一人読み」の効果を日本の学習者を対象に検証する試みが、国内において大きな独自性と意義をもつことが明らかになった。これらの内容は論文化し、島根県立大学紀要に投稿した。 二つ目に、アメリカを訪問し、ハーバード大学の研究者と交流する機会や、現地の公立学校の授業を観察する機会を得たことである。「自立した読者」の育成が標榜されつつも十分に達成されていない現状がアメリカにもあること、本研究の問題意識や授業データが、国際的にも一定の意義をもつことが確信できた。 三つ目に、「一人読み」を取り入れた小学校の実験授業について、データの分析を完了したことである。本実験授業の学習効果は、教科書教材を用いた一斉授業では得られ難いものであった。また、授業外読書の量と質への影響も顕著であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「おおむね順調に進展している」と判断した理由は、2023年度に実施予定であった研究課題、すなわち「論理的文章の読みの過程における条件的知識(目的や文章ジャンルに応じて技能を活用するための知識)の働きの全体像を把握する」「小学校高学年を対象に、『一人読み』を取り入れた授業の効果を検証する」という二点について、完了させることができたからである。 小学校高学年の実験授業の効果については、条件的知識の学習に対する授業内での効果、授業外読書の量と質への影響という二つの視点から分析を行った。その成果は、次のようなものである。 前者については、「一人読み」を授業に取り入れることが、大きく三つの学習を促進することが分かった。つまり、①教科書で学んだ技能の適用範囲を一般の本へ拡大させること、②どの技能を活用するのが適切かを試行錯誤する機会を学習者に提供すること、③基礎的な技能を改めて学習し直す機会が学習者に提供されることである。こうした成果は、教科書教材を用いた一斉授業では得られにくいものであると考えられた。 後者については、単元終了後も読書への関心が持続し、論理的文章の読書冊数に増加傾向が見られた。また、単に読書冊数が増えただけではなく、授業で学んできた技能を授業外読書にも用いようとする学習者が一定数増加した。このように、授業外読書への影響という視点からも、実験授業の効果を明らかにすることができた。 こうした結果は、「自立した読者」を育成するためには、「一人読み」を取り入れた授業をカリキュラムに位置付けていく必要があることを示唆している。また、こうした活動は高学力層の学習者ばかりではなく、低学力層の学習者にとっても意義を持つものであることを示している。国語科教師への働きかけの内容を考えるうえで、これらの成果と指針を得られた点は大きな収穫である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の進展を踏まえ、2024年度は以下の研究を進める。 一点目は、2023年度に完了した実験授業の分析結果を、2024年5月の全国大学国語教育学会で発表し、論文化を図ることである。 二点目は、教科書に採録された論理的文章教材と、一般の本として出版された論理的文章との言語的特徴の異同を、教科書教材と原典との比較を通して検討することである。先に、「一人読み」の効果として「どの技能を活用するのが適切かを試行錯誤する機会を学習者に提供すること」を挙げたが、これは教科書教材と一般の本との言語的特徴が異なるためだと考えられる。両者の言語的特徴の相違点が明らかになれば、「一人読み」を授業やカリキュラムに取り入れることの必要性を補強することが出来ると考える。これは、実験授業を分析することによって発想された新たな研究内容である。 三点目は、残された研究課題、つまり「国語科授業に『一人読み』の活動を普及していくために、国語科教師への効果的な働きかけの内容を明らかにすること」に着手することである。具体的には、国語科教師に提示する刺激材として、15分程度の動画を作成する。この動画には、学習者の様子や得られる学習効果のみならず、基本的な指導過程や授業構想の手順、学校内外で利用できる人的・物的資源(本を紹介しているHPやブックリスト、学校司書など)も含む予定である。こうした動画を作成したうえで、何人かの教師にパイロット調査を実施し、動画の修正と聞き取り調査の内容を固める。 このように、2024年度は、前年度で得られた研究成果の公表、および次なる研究課題の実施に向けた基盤を整える一年として位置付ける。
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