研究実績の概要 |
本研究は、歴史的意義についての思考を、より「語りづらい」人々へと拡張することを目指す。実行可能性や倫理的困難さを考慮し、1年目は文献レビューを通した研究デザインの設定を主な課題とした。 最も重要な課題は、「社会的弱者」という概念によって提示されるインタビュー対象者を本当にインタビューすべきかという点である。この点については、文献収集や共同発表を通じて検討を進めた。 現段階で以下の知見を得ている。第一に、研究の倫理的問題である。社会的弱者へのインタビューが持つ暴力性は周知の事実だが、体系的レビュー研究(Alexander, Pillay, Smith, 2018)によれば、社会的弱者に対する研究が進展しないことによる問題にも自覚的である必要があると示唆された。 第二に、研究対象についてである。例えば、定型発達とは異なる人々へのインタビューについての議論を歴史教育や関連領域の観点から収集した。その結果、定型発達の人々の想像力の限界性について指摘する論考が表れていることを確認した(野尻, 2023)。 第三に、研究方法についての考察である。これまでの歴史的意義の思考についての大部分の研究のように自国の歴史学習をある程度終えた子どもではない人々をどう調査するかについて検討を加えた。その結果,未就学児含めた幼少期の子どもに関する調査を行ったHauver(2019)など本研究課題に有益な示唆を与える研究を発見した。
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