研究実績の概要 |
本研究課題では,児童生徒の攻撃行動を促進する要因について,Lemerise & Arsenio(2000)の統合的社会的情報処理モデルに基づき,認知面と感情面の両面から検討を行うことを目的としている。なお,先行研究では,感情を含まない情報処理プロセスは場面想定法を用いて相手の行動の意図解釈を問う質問をすることで測定されている(e.g., Crick, Bigbee, & Grotpeter, 2002)。そこで,まずは感情を含めた情報処理プロセスの測定を可能にすることを目指し,測定の際に提示する架空の場面において生起する感情についても測定項目に含め,意図解釈の変数と併せて測定し,信頼性と妥当性を検証した。 中学1年生~3年生243名(男子121名,女子120名,不明2名)を対象に,場面想定法による質問紙調査を行った。今回提示した各場面は,回答者が学校生活で何らかの失敗をしており,その失敗について同級生から言及される状況を想起させるものであった。各場面でのネガティブ感情6項目と,同級生の意図を敵意的なものとみなす傾向3項目を測定した。 先行研究の手続きを参照し,3つの各場面で測定されたネガティブ感情の対応する項目の得点を加算し,場面数の3で除した値をネガティブ感情の6項目の粗点とした。この6項目に対して最尤法・プロマックス回転による因子分析を行った。その結果,5項目2因子解が得られた。各項目の内容から第一因子は屈辱感と命名され(α=.83),2項目からなった第二因子は罪悪感と命名された(α=.90)。次に,変数間の相関係数を算出した。その結果,屈辱感は敵意帰属バイアスと有意な中程度の正の相関を示したが(r=.62,p<.001),罪悪感は有意な相関を示さなかった。この結果から,ネガティブ感情の種類によってその後の社会的情報処理過程に作用するメカニズムが異なる可能性が示された。
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