研究実績の概要 |
本研究の目的は,治療初期におけるドロップアウト防止という観点から,浅い人間関係に焦点を当てた行動活性化について効果を検証することである。 深くは知らない職場の同僚,習い事で会うクラスメイト,帰宅時に立ち寄るコンビニの顔見知りの店員など,私たちの日々の生活は「その場限りの付き合いや雑談を交わす程度の付き合い」,いわゆる浅い人間関係(田中・沢宮, 2020)で溢れている。この半世紀の間に,職場,親戚,近隣の人付き合いにおいて浅い人間関係を望む人は長期的に増加しており(荒牧・村田・吉澤, 2019),一人ひとりが分散した様々なコミュニティの境界を越えて関わるような,自分を中心としたネットワークを構築する傾向へと変化している(Rainie & Wellman, 2012)。これらを踏まえると,近代化が進むに従い,浅い人間関係が中心となって社会的交流は活発化していると捉えることができる。 研究1では,Sandstrom & Dunn(2014)を参照し,最小限の社会的交流とポジティブ感情および所属感との関連について明らかにするためのフィールド実験を行う。Sandstrom & Dunn(2014)は,これまで焦点が当られてこなかった親密さの低い人間関係における最小限の社会的交流(笑顔,アイコンタクト,短い会話)の重要性について論じた。その後の実証的研究において最小限の社会的交流とウェルビーイングとの関連は示されているが(Ascigil et al., 2023),本邦においてはまだ検討されていない。 当該年度は,最小限の社会的交流に関する概念的追試を行う上で,雑談に関連する研究知見を収集した。そして,欧米と日本の雑談文化の違いの背景要因としてシャイネスに焦点を当て,実験計画を策定した。次に,最小限の社会的交流を促進させるための要因について検討し,雑談研究の知見を参考に実験教材を作成した。
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