研究課題/領域番号 |
23K12950
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
大矢 浩徳 東京工業大学, 理学院, 准教授 (90835505)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 量子ループ代数 / 有限次元表現論 / 量子Grothendieck環 / (q,t)-指標 / クラスター代数 |
研究実績の概要 |
本課題の目標は,非対称型量子ループ代数の有限次元表現圏と,そのunfoldに対応する対称型量子ループ代数の有限次元表現圏の間に見られる類似性を概念的な形で理解し,そのような類似性をより広い表現圏においても見出すことである. 今年度の初めには,藤田遼氏,David Hernandez氏,Se-jin Oh氏との共同研究で,量子ループ代数の有限次元表現の(q,t)-指標の変数に対するある非自明な双有理変換で,既約表現の(q,t)-指標を別の既約表現の(q,t)-指標に写すようなものの存在を証明し,その結果をプレプリントとして発表した.これは,非対称型量子ループ代数の有限次元既約表現の(q,t)-指標を,そのunfoldに対応する対称型量子ループ代数の有限次元既約表現の(q,t)-指標に写す双有理変換を含んでおり,本課題の基礎となる結果である.この双有理変換の存在の証明は,量子Grothendieck環におけるクラスター代数構造を用いた純代数的なものである.これはクラスター代数構造の新たな応用を与えている一方で,表現論的な双有理変換の存在の説明とはなっていない.この点を明らかにすることは今後の研究課題である. また,今年度は本課題の初年度であるので,研究を進めるうえでのアイデアを得るため,研究費を用いた積極的な情報収集を行った.特に,研究費を用いて研究集会"Algebraic Lie Theory and Representation Theory 2023"の運営を行い,関連分野の最近の進展について情報を収集した.また,関連分野の研究者とシフト量子アフィン代数の表現論に関する継続的な勉強会を開始し,情報収集を続けている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の初めには,量子ループ代数の有限次元既約表現の(q,t)-指標を保つ非自明な双有理変換の存在を,藤田遼氏,David Hernandez氏,Se-jin Oh氏との共同研究のプレプリントとして発表することができた.これは本課題の基礎となる結果である.また,プレプリントを完成させる過程で,双有理変換の当初想定していたよりも良い性質が明らかになったり,プレプリント発表後にも双有理変換の存在の証明が簡略化されたりと,様々な進展が見られた. 一方で,上記の(q,t)-指標の変数の良い双有理変換の存在の表現論的な意味付けや,より広い表現圏への拡張については,今後の課題として残っている.後者の"より広い表現圏"としては,量子アフィンボレル代数の表現圏Oやシフト量子アフィン代数の表現圏Oを想定しているが,これらのトピックに関しては,継続的な勉強会を今年度から実施しており,情報収集と並行しながら研究が進められている. また,今年度は本課題の初年度ということで積極的な情報収集を行ったが,研究集会の運営や研究集会への参加を通じて,今後の研究につながる有益な情報やアイデアを多く得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
まずは,量子アフィンボレル代数の表現圏Oに属する表現のq-指標に対して,我々が証明した量子ループ代数の有限次元既約表現のq-指標の双有理変換公式が拡張されるかという点について考察する.特に表現圏Oにおいては,prefundamental表現と呼ばれる無限次元表現が基本的な構成要素となるので,prefundamental表現のq-指標の良い変換の考察にまずは取り組む.量子アフィンボレル代数の表現圏Oやシフト量子アフィン代数の表現圏Oについては,現在主催している勉強会を来年度も継続し,近接分野の研究者と情報の交換を行いながら情報収集および研究を進める. また,我々の(q,t)-指標の双有理変換公式については抽象的に存在を示したものの,その具体形に関する考察はまだ十分でない.具体形は,クラスター代数における変異を計算すれば原理的には導出可能であるが,そこからどのような表現論的に有益な情報を取り出すかという点については,考察の余地がある.そこで,来年度は非自明な具体例の計算を行い,さらに多くの観察を行う予定である. (q,t)-指標の双有理変換公式の概念的な理解については,まだ手掛かりがあまり得られていない状況である.このため,具体例の計算によるデータの蓄積を進めつつ,引き続き関連分野の情報収集を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度当初の支払請求額は全て使用したが,年度途中で研究集会の運営と出張のため追加で助成金が必要となり,400,000円の前倒し請求を行った.これが若干多めの請求となり,結果として1,135円の次年度使用額が生じたが,今年度は本課題の初年度であるため,これは研究期間全体で見ればほぼ誤差の範囲であると考えられる.このため,次年度以降も予定通りに研究費を使用し,研究を行う.
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備考 |
Ryo Fujita, David Hernandez, Se-jin Oh, and Hironori Oya, arXiv:2304.02562 https://arxiv.org/abs/2304.02562
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