研究課題/領域番号 |
23K13067
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
成塚 政裕 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (20960173)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 超伝導 / 原子層薄膜 / ツイストロニクス / 走査型トンネル顕微鏡 / 分子線エピタキシー法 |
研究実績の概要 |
本研究では、遷移金属カルコゲナイドの原子層薄膜を対象に、分子線エピタキシー法を用いた精密な原子層数や積層の制御、磁性体薄膜とのヘテロ積層の創出を行い、回転対称性や並進対称性の低下した新奇な超伝導状態を極低温走査トンネル顕微鏡により明らかにすることを目的とする。研究初年度の本年度は、グラフェン薄膜基板上にイジング超伝導体であるNbSe2単層膜を成長させた場合に、自然に導入される積層のひねりが超伝導に与える影響の解明に注力した。これまでのところ、ひねり角度が24度、28度、0度の積層試料が得られており、ひねり角度に応じて超伝導ギャップサイズが異なること、また超伝導ギャップ内に残留状態密度があることが明らかになった。この残留状態密度を詳しく調べるために超伝導ギャップ内のエネルギーで準粒子干渉効果パターンの測定を行なったところ、NbSe2の結晶構造のみからでは説明のつかないカイラルなパターンが見られた。このパターンは波数空間でグラフェンとNbSe2のフェルミ面が交差する点において、NbSe2の超伝導が抑制されるというモデルでよく説明できることがわかった。この結果は、NbSe2とグラフェンの組み合わせに留まらず、マジックアングルグラフェンを始めとする2次元ひねり積層系における超伝導の理解や制御に大きな波及効果が期待できる結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当初に計画していたNbSe2のひねり積層における超伝導状態の研究は、ひねり角度が有限な試料とゼロ度の試料ともにSTMによる測定が行え、異なるひねり角度によって超伝導ギャップサイズや超伝導ギャップ内の残留状態の有無、さらには残留状態の作る準粒子干渉パターンの観察に成功した。この準粒子干渉パターンは波数空間でグラフェンとNbSe2のフェルミ面が交差する点において、NbSe2の超伝導が抑制されるというモデルでよく説明できることがわかった。このような、ひねりによる超伝導性の制御という結果は、当初の期待以上の成果である。 一方でNbSe2薄膜で期待される面内磁場下の対称性の低下した超伝導状態を探索する目的でグラフェン基板上のNbSe2単層膜に対し、面内方向に磁場を印加して測定を行ったところ現在実験可能な2Tまでの磁場強度では超伝導ギャップサイズに変化が現れず、NbSe2のイジング超伝導性を確認する結果となった。今後は他の遷移金属ダイカルゴゲナイド超伝導体に探索対象を広げたい。
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今後の研究の推進方策 |
高磁場下で期待される量子液晶状態の探索を行う。液晶にはネマティック相のみならず回転対称性と並進対称性の破れた超伝導状態があることがよく知られている。超伝導体においてもそのような対称性に分類される量子液晶状態の存在が理論的に指摘されており、候補物質として遷移金属カルコゲナイドの硫黄化ニオブ(NbS2)に注目する。今年度までに作成に成功しているグラフェン基板上のNbSe2薄膜に対し、成膜後にトポタクティック反応を利用することでNbS2の原子層薄膜を得ることを計画している。硫黄加熱用のセルは既に入手しており、トポタクティック反応用真空チャンバーを設計中である。今年度は、NbS2の薄膜作製とSTM測定を行い、NbSe2薄膜とどのような違いが現れるかを調べる。また極低温高磁場下での測定を行い、実空間で超伝導ギャップが周期的に振動する振る舞いの観測を試みることを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
トポタクティック反応用の真空チャンバーの発注を計画していたが、設計図にミスがあったため発注が遅れ年度内に納品できるスケジュールでの発注が行えなかった。現在までに設計図の修正は完了しておりまもなく発注を行う予定である。前年度から繰り越した使用額はこのトポタクティック反応用の真空チャンバーの一部に充てる計画である。
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