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2023 年度 実施状況報告書

高運動量ヒッグス粒子をプローブとしたTeVダークマターの探索

研究課題

研究課題/領域番号 23K13114
研究機関筑波大学

研究代表者

廣瀬 茂輝  筑波大学, 数理物質系, 助教 (40875473)

研究期間 (年度) 2023-04-01 – 2026-03-31
キーワードヒッグス粒子 / ダークマター / LHC / シリコン検出器 / タウレプトン
研究実績の概要

2023年度は、LHC-ATLAS実験Run 3で収集されたデータを用いた高運動量ヒッグス粒子探索にむけた準備研究を開始した。まず、先行研究(JHEP 11 (2020) 163)で開発されたττジェット再構成アルゴリズムを適用し、高運動量ヒッグス粒子の探索感度見積もりを開始した。ここでは、粗い事象選別にて信号領域を設定し、期待される信号および背景事象分布をモンテカルロシミュレーションにより見積もった。その結果、当初から予想されていたZ→ττ背景事象だけでなく、QCDジェット由来の偽τレプトン事象が無視できず、その抑制や精度良い見積もりがこの解析の鍵となることがわかった。また、解析の流れを整備する中で、今後感度を上げるために改良するべきττジェット再構成アルゴリズムや信号および背景事象の選別手法について確認した。
ITkストリップセンサーの特性研究については、これまではHL-LHC全期間で期待される放射線量以上の線量(16×10^14 neq/cm^2)の照射を行い、量産センサーの特性の一様性をモニターしてきた。一方で、HL-LHC初期における照射線量は比較的少なく、よってそのような期間はより少ない放射線損傷でのセンサーの特性理解も、ITk検出器運転時の重要な知見となると考え、(1.0-8.4)×10^14 neq/cm^2での照射実験を行った。この結果から、シリコンセンサーの様々な特性はほぼ放射線量に比例して変わっていく一方で、ストリップ間抵抗は8×10^14 neq/cm^2程度までは急激に減少し、その後漸増する傾向を見せるということがわかった。ただし、この結果は照射実験に用いるためのテストセンサーを用いたものであり、したがってこの振舞いはテストセンサー特有である可能性がある。この点を解明するため、実際のストリップセンサーでの特性確認が重要となる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

高運動量ヒッグス粒子探索研究についてはおおむね当初の計画通りに進んでおり、特に背景事象となる物理過程やその分布について、今後ττジェットアルゴリズムを改善したり事象選別を最適化したりするための基礎となる知見を得た。これらを、国際会議「ATLAS Higgs Workshop 2023」で発表した。
ITkストリップセンサーの放射線損傷研究については、ストリップ間抵抗値が放射線量に対して単調増加せず、前項で述べたような特徴的な振る舞いを見せた。ストリップ間抵抗が予想以上に低下すると、ストリップ間のクロストークが増加して隣接チャンネルでも信号が検出されることが多くなり、実際の運用時に予期せぬ位置分解能の悪化を引き起こす可能性がある。この点をより正確に理解するため、テスト構造体ではなく実際のストリップセンサーへの照射実験を2023年12月に行い、ストリップ間抵抗の正しい特性を理解しようと計画したが、照射施設(東北大学CYRIC)が装置不具合により停止したため、計画した照射実験を年度内に実施することができなかった。2024年度に、追加のビームタイムを申請し、この照射実験を行う予定である。

今後の研究の推進方策

2024年度には、まず高運動量ヒッグス粒子探索の事象選別を最適化すると同時に、信号と背景事象を効率的に分離するための機械学習モデルを構築し、現時点で期待される信号有意度をモンテカルロシミュレーションを用いて見積もる。また、ττジェット再構成アルゴリズムを改善し、さらにτレプトン崩壊により放出されるニュートリノが持ち去る運動量を考慮してττ不変質量を計算することで、できるだけ良い分解能でのZ→ττ背景事象との明瞭な分離を狙う。さらに、2つのτレプトンのうち一方が軽いレプトン、一方がハドロンに崩壊するチャンネルに拡張する。軽いレプトンが電子の場合、電子もハドロンと同様にカロリメータでエネルギーを落とすが、そのシャワー形状がハドロンとは異なることから区別できる。軽いレプトンがミュー粒子の場合は、ミュー粒子が外層の検出器に明瞭な信号を残すという情報を利用する。
ITkストリップセンサー研究については、2023年に実施できなかった照射実験を実施し、ストリップ間特性の正確な理解を得る。また、センサーの温度特性を精密に調査する。具体的には、ITkの荷電粒子検出効率に直結する電荷収集効率及び静電容量特性を正確に測定する。さらに、KEK PF-ARテストビームラインにて3 GeV電子ビームを照射し、最小電離粒子に対して電荷収集効率やストリップ間特性(特にクロストーク量など)を測定し、よりHL-LHCに近い実験環境でのセンサー特性を理解する。

次年度使用額が生じた理由

2023年度に計画していた陽子ビーム照射実験が、実験施設における中核装置の不具合により実施できなかった。したがって、その分の実験を2024年に行おうと計画している。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 国際共同研究 (5件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)

  • [国際共同研究] ワシントン大学/カリフォルニア州立大学サンタクルーズ校(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      ワシントン大学/カリフォルニア州立大学サンタクルーズ校
  • [国際共同研究] トロント大学/カールトン大学(カナダ)

    • 国名
      カナダ
    • 外国機関名
      トロント大学/カールトン大学
  • [国際共同研究] チェコ科学アカデミー(チェコ)

    • 国名
      チェコ
    • 外国機関名
      チェコ科学アカデミー
  • [国際共同研究] スペイン高等科学研究院/バルセロナ大学(スペイン)

    • 国名
      スペイン
    • 外国機関名
      スペイン高等科学研究院/バルセロナ大学
  • [国際共同研究] バーミンガム大学(英国)

    • 国名
      英国
    • 外国機関名
      バーミンガム大学
  • [学会発表] 高輝度LHC ATLAS実験用シリコンストリップセンサーの量産時性能評価と70 MeV 陽子線を用いた照射量依存性に関する研究2024

    • 著者名/発表者名
      前山滉太朗, 廣瀬茂輝, 中村浩二, 原和彦, 佐藤構二, 花垣和則, 外川学 他ATLAS日本シリコングループ
    • 学会等名
      日本物理学会2024年春季大会
  • [学会発表] High-pT Higgs measurementwith boosted $\tau\tau$2023

    • 著者名/発表者名
      Shigeki Hirose
    • 学会等名
      ATLAS Higgs Workshop 2023
    • 国際学会
  • [学会発表] LHC Run 3と高輝度LHCにおけるヒッグスセクター全容解明への挑戦2023

    • 著者名/発表者名
      廣瀬茂輝
    • 学会等名
      日本物理学会第78回年次大会
    • 招待講演
  • [学会発表] LHCからの最新物理結果とRun 3の状況2023

    • 著者名/発表者名
      廣瀬茂輝
    • 学会等名
      基研研究会 素粒子物理学の進展2023
    • 招待講演

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公開日: 2024-12-25  

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