研究課題
本研究では850GHz帯域の天文サーベイ観測を南極で実現するための超伝導センサーMKIDを開発する。筑波大学を中心に開発されている南極30cmサブミリ望遠鏡の受信機部分をアップグレードすることで、地上ではまだ実現されていない850GHz帯域観測を他のプロジェクトに先駆けて実現する。本研究期間を通じて、MKIDに含まれる超伝導共振器やアンテナのデザイン最適化・性能評価を行う。性能を精査するための評価系・読み出しなどの開発も進めて、南極の観測環境を十分に活かせる低ノイズなMKIDを開発することが本研究の目的である。今年度は850GHz用のアンテナの最適化を電磁界シミュレーションHFSSを用いて行った。先行研究の100GHz帯域アンテナをスケールダウンしてシミュレーションを進めたものの、共振器のCPW線路による寄与が無視できない問題や作製精度によって変更せざるを得なくなった部分があったことで、想定よりも細かい調整が必要となった。最終的には、インピーダンス整合やシリコンレンズも合わせたビーム形状を評価した結果、概ね100GHzと遜色ない性能を獲得することに成功している。また、理化学研究所と交渉を行い、クリーンルーム立ち入りのための手続きを経て、MKIDの作製をスタートした。装置のパラメータチューニングを確認し、超伝導薄膜の厚みや線幅をコントロールした上でMKIDを作製できるようになった。また、MKIDのデザイン設計のソフトウェア開発も進めている。
2: おおむね順調に進展している
本研究でのMKID開発のため理化学研究所での作製を開始した。超伝導薄膜の膜厚や線幅のチューニングを通じた装置の作製パラメータの理解で、当初よりもMKIDの作製や物性の理解については少し遅れているものの、2年目から行う予定だったアンテナ・MKID設計などを先行して始めたことで、全体としてはおおむね順調といえる。特に850GHz帯域アンテナについてはすでに先行研究となる100GHz帯域と程度の性能を発揮できることがわかっている。そのほか、MKIDの常温部の読み出し系が南極環境下で問題ないかを示すためにも、現行の読み出し系を低温で評価することを考えつき、その準備も進めている。
理化学研究所での作製を軸にMKIDの性能評価を進めて、設計が完了したアンテナと組み合わせてMKIDデザインの決定を行う。詳細な光学性能の評価に必要となる極低温黒体システムを完成させて、具体的な性能評価へと移行していく予定である。
MKIDの作製が遅れていることで使用するフォトマスクのデザインが決定できていないため、実際に作成を行う次年度へとその予算を使用することとした。また、当初購入する予定だった読み出し系に関しては、実際に観測に使われた実績のあるものをグルノーブル大学から提供してもらえる可能性を議論しており、その結論が出てから予算の用途を決定する必要があり、読み出し系として計上した予算も次年度以降の使用とした。さらに、評価用の冷凍機系が不調となっている問題があり、次年度以降で修理をするための予算を確保する必要があった。以上の理由から次年度使用額が生じた。
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TEION KOGAKU (Journal of Cryogenics and Superconductivity Society of Japan)
巻: 59 ページ: 34~42
10.2221/jcsj.59.34