研究課題/領域番号 |
23K13121
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小林 雅俊 名古屋大学, 素粒子宇宙起源研究所, 特任助教 (50824059)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ニュートリノ / ラドン / 極低放射能 / 液体キセノン / 暗黒物質 |
研究実績の概要 |
本研究は、イタリア・グランサッソ国立研究所で現在進行中の国際共同実験XENONnTにより、低エネルギー太陽ニュートリノの観測を行うことを目的としている。XENONnT検出器は8.5トンのキセノンを用いたタイムプロジェクションチェンバーで、特に数keV-数10keVの低エネルギー領域での観測に関して世界で最も低い放射性バックグラウンドレベルを達成している。XENONnT実験の主目的は暗黒物質の直接探索であるが、同検出器の達成した世界一の極低放射能環境により、数10keV領域における太陽ニュートリノ反跳事象に関して世界初の観測を行うことが期待できる。 本観測における最も重要な課題となるのが、放射性バックグラウンドの一つであるラドンに由来の事象に付随する系統誤差である。2022年に報告者らによって発表されたXENONnTにおける初期観測データの解析結果では、ラドン由来の事象レートには40%程度の大きな不定性が存在した。ラドン由来の事象の作るスペクトル形状は太陽ニュートリノのものと似ていることから、太陽ニュートリノによる反跳事象を3シグマで観測するためには、この系統誤差を5%程度まで削減することが不可欠となる。 本年度はドイツ・MPIKグループと共同で実施した、ラドン線源によるキャリブレーションのデータの解析を進め、線源導入後の検出器内におけるラドンの拡散や崩壊後の娘核との存在比の推定を行うことで系統誤差を評価した。解析の状況と結果に関しては、XENON実験のコラボレーションミーティングで報告を行うとともに日本物理学会での発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低エネルギー太陽ニュートリノの初観測のためにはラドン事象に付随する系統誤差の削減が不可欠となっている。そのため、当初の予定通りラドン線源を用いたキャリブレーションの実施およびそのデータ解析を進めている。また、ラドン事象の系統誤差が削減されたのちに問題となるクリプトン事象の系統誤差に関してもMPIKグループ、および東京大学グループと共同で検出器内の放射性クリプトンの存在量に関するモニタリングを実施している。
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今後の研究の推進方策 |
ラドン事象の系統誤差に関して、現在の40%程度から5%程度までの削減を行う。またその次に問題となる、放射性クリプトンの存在量、検出器部材に含まれる放射性不純物からのガンマ線事象についても系統誤差の推定を行い、最終的に数10keV領域で初めてとなる太陽ニュートリノ事象の3シグマでの観測を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度の検出器運転中に起こった予期せぬ電極での放電により、検出器の状態が変化したことからキャリブレーション等の計画を再検討する必要があったため。次年度は主に旅費として実験が行われるグランサッソ研究所への滞在費、学会及びコラボレーションミーティングへの参加費のほか、ラドン線源の高強度化のための物品(フランジ等)、検出器部材に含まれる放射性不純物から発生するガンマ線に関するシミュレーションを行うためのハードディスクの物品購入を行う。
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