研究課題
本研究は、魚類の歯や鱗の微小な化石「イクチオリス」の革新的な観察手法を開発することにより、過去の地球環境変動に対する魚類を中心とした海洋生態系の応答を解読することを目的としている。2023年度は、深層学習技術の一つである物体検出を用いて、顕微鏡で撮影したスライドガラスの画像から、イクチオリス微化石を抽出する技術を開発した。開発した自動検出の技術について、人間の観察と比較を行って検討を行った結果、教師データ数の多い魚類の歯については6%、鱗は24%程度の誤差を見込んで検出ができることが明らかになった。また、検出結果を人間がチェックして誤検出を除外するという条件の下では、歯・鱗・特殊な鋸状の歯の全てのクラスについて10%以下の誤差で検出ができ、イクチオリスの観察に実用可能であることが示された。また、この手法を用いて太平洋の掘削コア試料からイクチオリスの観察を行い、白亜紀後期から現在に向かってサメ類の割合が段階的に減少していることを示した。この成果はEarth and Space Science誌にて国際共著論文として発表した。さらに、太平洋の南鳥島周辺海域の11のサイトから69試料についてスライドの作成を行うとともに、開発した深層学習技術を用いて10万個以上のイクチオリスの観察を行った。この結果、新生代の特定の時期に魚類の生産性が上昇していたことが示された。これらの研究データを整理し、現在国際誌に投稿する論文を準備中である。また、新たに観察を実施する対象として、国際深海科学掘削計画によって大西洋の23サイトから採取された海底堆積物試料の分取を行った。
2: おおむね順調に進展している
本研究を実施する根幹となる、効率的な微化石の検出手法が構築された。さらに、この内容が国際誌に公開されたことによって、今後の研究成果の発表が容易になった。これらに加えて、新たな研究試料の取得やデータの解析も進んでいること、国際共著論文の執筆を契機として国際共同研究の足掛かりも得られていることなどから、本研究の進捗状況は概ね順調であると判断した。
2024年度は、これまでに得られた南鳥島周辺のデータについて論文投稿を行う。これと並行して、開発した効率的な観察手法を活用して、太平洋のシャツキーライズ周辺や大西洋などの試料を新たに観察し、白亜紀後期から現在までのグローバルな環境変動に対する海洋生態系の応答を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
Earth and Space Science
巻: 11 ページ: -
10.1029/2023EA003122
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