研究課題/領域番号 |
23K13205
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉田 聡 東北大学, 東北アジア研究センター, 学術研究員 (70909598)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | 炭酸塩岩 / 太古代 / 原生代 / 炭酸塩置換態硫酸 / LA-ICP-MS |
研究実績の概要 |
海生炭酸塩岩には堆積当時の海洋の化学組成が記録され得る.しかし,先カンブリア時代の炭酸塩岩は変質作用や変成作用を受けて堆積時の初生的な化学組成が改変されてしまうため,その組成から当時の海洋の組成を推定することが困難であった.本研究では,太古代-原生代の炭酸塩岩中の炭酸塩置換態硫酸(CAS),希土類元素,およびCo, Ni, Cu, Znなどの生命必須金属元素濃度を局所分析で測定し,炭酸塩岩が受けた変質作用・変成作用の化学組成に対する影響を定量化することを目的としている. 2023年度は主に炭酸塩岩試料に対する局所希土類元素およびCAS濃度分析法の構築を目指し,ガボン共和国の原生代(約22億年前)に堆積したフランスビル層群に産する炭酸塩岩を用いた.これは,フランスビル層群から世界最古の真核生物の痕跡が報告されてることから,この層群の堆積盆の化学組成は生命進化に対して重要な役割を担った可能性が強く示唆されるためである.そこで,この層群に産する炭酸塩岩が堆積後に受けた変質作用による化学組成の変化を見積もり,初生的な炭酸塩岩の組成に基づき,堆積場とその化学組成の推定を行った. 試料の薄片観察の結果,炭酸塩鉱物には,再結晶化作用に伴う微細組織が確認された.この微細組織ごとの化学組成を得るために局所分析に用いるレーザー径を25-100マイクロメートルに設定し,十分な分析精度・確度を得た.薄片観察と局所希土類元素濃度分析の結果,海水から直接沈殿した炭酸塩鉱物と鉄マンガン酸化物が共沈し,その後の変質作用により両者が混合した結果,前述の微細構造が形成されたことが分かった.この混合を考慮すると,フランスビル層群の炭酸塩岩はそれ以前の時代に比べて酸化的な海洋で堆積したことが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
元々予定していた計画では,2023年度は(1)すでに採取されているガボン共和国に産する原生代炭酸塩岩を用いて局所希土類元素濃度分析が炭酸塩岩の堆積場推定に利用可能か確認することと,(2)前述の原生代炭酸塩岩に対して局所炭酸塩置換態硫酸塩(CAS)濃度分析を行い,変質作用によるCAS濃度の変化を定量化すること,および(3)栃木県佐野市で野外調査を行い,顕生代ペルム紀炭酸塩岩を採取し,局所炭酸塩置換態硫酸濃度分析を通してドロマイト化作用による硫酸塩組成の変化を定量化すること,の3つを目標としていた.(1)に関しては筆頭著者として国際誌に論文を掲載するに至ったため目標を達成することができたと言える。一方,(2)に関しては,局所CAS濃度分析自体は高い精度・確度で完遂できた.しかし,その組成は複雑な変質作用の履歴を受けて変化したことが想定されため,統一的な解釈を与えることに難航している.そのため,(3)の目標に着手するタイミングに遅れが生じている。総じて,上記の自己評価をするに至った.
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今後の研究の推進方策 |
2024年度の研究目標はガボン共和国の原生代に堆積したフランスビル層群に産する炭酸塩岩を用いた当時の海洋中の生命必須元素組成の推定と当時の海洋組成と真核生物の誕生の関係についての検証を遂行することである.特に,2023年度に分析を完遂した原生代炭酸塩岩の局所炭酸塩置換態硫酸(CAS)濃度分析の結果に統一的な解釈を与えることを第一目標に据える.これまで得られた結果からは,炭酸塩鉱物と共沈した硫化物が相応の微量元素を含んでおり,その後の炭酸塩鉱物の化学組成に大きな影響を与えた可能性が示唆される.それゆえ,併せて分析していたCo, Ni, Cu, Znなどの生命必須元素組成が硫化物の影響をどの程度受けたかを定量化し,真核生物が誕生した海洋の当該元素組成を推定する.結果が得られ次第,学会発表および国際誌への論文投稿を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
申請者の異動に伴い,分析や調査計画の見直しが必要になったため,2023年度に計画していた栃木県での野外調査を2023年度以降に繰り越したことや,分析内容の国際誌への論文投稿の遅れが理由に挙げられる.翌年度は繰り越した野外調査にかかる費用や分析の遅れにより生じた国際誌への論文投稿に関わる英文校正費用などが計上されるため,翌年度分の助成金使用は申請と同額になると見込まれる.
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