研究実績の概要 |
ガスタービンなどに用いられる遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating:TBC)は溶射によって成膜される熱効率向上に欠かせない表面改質技術である.しかし, 溶射皮膜は積層過程などで大規模き裂の発生や強度低下の原因となる残留応力を生じる.残留応力の簡便な評価方法としてX 線回折法は有効であるが,格子ひずみと応力の変換係数であるX線弾性定数が不可欠である.溶射皮膜のX線弾性定数は機械的弾性定数を上回ることが報告されている.この要因として粒子のすべり変形や, 空孔の影響も示唆されているが, 詳細な要因は不明である. そこで本研究では気孔率や粒子の密着度合いの異なる材料のX 線弾性定数を測定し, X 線弾性定数に及ぼす影響を明らかにする.申請者らはTBC ・基材一体材の4 点曲げを用いてTBC 各層のX 線弾性定数を測定した. その結果, 大気プラズマ溶射したTBC および中間層であるボンドコート(BC)においては,As-sprayed材においていずれもX線弾性定数が機械的弾性定数を上回った. 一方,大気中熱処理を施したBCについても評価したところ,X線弾性定数は機械的弾性定数と同様に上昇したものの,その上昇幅はわずかであり,機械的弾性定数との差に着目すると,機械的弾性定数に近づく傾向を示した.また,HVOFにより成膜された緻密なBCではAs-sprayed材でX線弾性定数が機械的弾性定数とほぼ一致しており,熱処理に伴う機械的弾性定数の上昇に比例してX線弾性定数が上昇した. 以上の結果より,粒子間の結合の弱い溶射皮膜のみでX線弾性定数の上昇が認められており,このことから溶射粒子間のすべり変形がX線弾性定数の上昇に支配的であることを明らかにした.得られた知見は,予測式構築に向けて重要である.
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