研究課題/領域番号 |
23K13258
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
金野 佑亮 北海道大学, 工学研究院, 助教 (10907728)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 宇宙火災安全 / アルテミス計画 / 遠心機 / 遠心力とコリオリ力 / 燃え拡がり |
研究実績の概要 |
令和5年度の研究では,①遠心機の開発,②電線材料の燃焼特性に対する遠心力の影響の調査,③火炎周りの流れ場の可視化実験の3項目を実施した.各項目で得られた成果を以下に記す. ①:試料位置(R=120 mm)に対して,最大10 Gの遠心力を負荷できる遠心機を開発した.燃焼容器は気密性があり低圧環境ならびに任意のガス組成での燃焼実験を実施可能である.回転軸と試料の距離が可変であり,配置条件を変えることで遠心力を一定として回転速度を変数とした実験も実施可能である.2台の可視カメラと2台の半導体レーザーを搭載しており,2方向からの試料撮影と流れの可視化実験も実施可能である. ②:電線材料を対象に,遠心力と酸素濃度を実験変数として,燃え拡がり速度,限界酸素濃度,火炎形状の計測を行った.遠心力が大きくなるにつれて燃え拡がり速度が低下し,限界酸素濃度が上昇することが明らかになった.遠心力によって誘起された浮力流れによって,化学反応速度律速条件で現れる吹き消えが発生することを確認した.また,火炎の傾き角を計測して,浮力流れに対する遠心力とコリオリ力の寄与度を調査した.その結果,遠心力が小さくなるにつれて,火炎の円周方向への傾きが大きくなり,遠心力が小さくなると浮力流れに対するコリオリ力の影響が相対的に大きくなることを実験的に示すことができた. ③:遠心機内の所定の位置にシート光を水平に配置した.容器内にトレーサー粒子(線香の煙 or 直径1 μmのアルミナ)を散布して流れの定性的な様子を観察した.まず遠心機回転後に,容器内の流体が剛体回転に達する時間を計測し,おおよそ30秒程度で剛体回転に達することを確認した.また,火炎周りの流れの様子を観察し,容器内にコリオリ力由来の循環流と渦が形成されることを確認した.今後,数値計算との比較を行い,遠心機内の浮力流れの特徴について調査を進める.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた試料の配置条件を変数とした実験を完了することができなかったため,次年度に速やかに完了させる.ただし,その他の項目については当初の計画以上に多くの成果を得ることができたことから,以上のような評価とした. 「研究実績の概要」に記した②の成果は,2件の国際会議で発表を行い,1件の論文投稿を行った.特に,浮力流れに対する遠心力とコリオリ力の寄与度を明らかにできたことは,将来,遠心機を用いて燃焼実験を計画する際の重要な指標になるものである.流れ場の可視化実験についても,可視化精度には改善の余地はあるものの,数値計算の結果と定性的な比較をするには十分なデータを取得することができた.また,遠心機を使った燃焼研究に取り組んでいる米国のチーム(Case Western Reserve University,NASA,NIST)の研究者らとコンタクトを取り,両者の研究について紹介する機会を設けた.本研究に対して大きな関心を示して頂き,今後も定期的に研究打合せを実施する予定である.米国の研究機関に本研究の存在と価値を認識してもらえたことも,本年度における大きな研究成果の一つである.
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今後の研究の推進方策 |
試料の配置条件を変数とした実験,低圧環境下における燃え拡がり実験について,系統的な実験データの取得を行う.それぞれのテーマについても流れ場の可視化実験を実施し,遠心機内で誘起される自然対流の特徴について明らかにする. さらに,令和6年度にJAXAと共同で実施することを計画している航空機実験の準備を進める.航空機実験では,微小重力環境に置いて遠心機を使った燃え拡がり試験を実施する予定である.実験装置の設計と地上での予備試験を実施する.
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