研究課題/領域番号 |
23K13363
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤原 弘和 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任助教 (30974886)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 光電子顕微鏡 / オペランド観察 / ハフニア系強誘電体 / 強誘電体デバイス |
研究実績の概要 |
本研究課題では、先端大規模集積回路への実装が期待されるHfO2系強誘電体キャパシタの特性変動過程を解明することを目的としている。強誘電体Hf0.5Zr0.5O2を用いたクロスバー型構造のキャパシタに対して、オペランドレーザー励起光電子顕微鏡による観察を行った。キャパシタにサイクリングストレスを印加すると、4x10^6サイクルでリーク電流の跳びを観測し、それに伴い、キャパシタ内の2μm程度の領域で光電子強度の増加を観測した。これは絶縁破壊の前駆現象であり、絶縁破壊の兆候を可視化した成果である。さらに、7.4x10^6サイクルで完全な絶縁破壊を起こし、それと同時に、光電子強度が増加した領域内で伝導パス形成に起因する低光電子強度スポットを観測した。顕微光電子分光により、このスポット内ではフェルミ準位近傍の状態密度が増加していることを明らかにした。この実験では上部電極を除去しておらず、上部電極越しに強誘電体膜の電子状態の変化を観察したものである。 同じ測定技術を用いて、絶縁破壊までの時間(寿命)が異なる4個のキャパシタを観察した。4個のうち2個は数秒程度の短い寿命のキャパシタであり、これらは下部電極のエッジ近傍で伝導パスが形成されることがわかった。一方、寿命の長い2個のキャパシタは、エッジから離れた平らな領域に伝導パスが形成されることを明らかにした。断面透過型電子顕微鏡測定から、寿命の長いキャパシタでは下部電極のエッジに空隙が形成されていることがわかった。絶縁膜および上部電極が下部電極に密着していないことで下部電極のエッジでの電界集中が緩和されたことで寿命が相対的に長いことが示唆された。 現在、上部電極の薄層化など、試料の改善に取り組んでおり、fatigue等の自発分極の変動に伴う顕微像の変化を観察する実験を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、先端大規模集積回路への実装が期待されるHfO2系強誘電体キャパシタの特性変動過程を解明することを目的としている。ここで注目している特性変動は、電気抵抗の変動及び自発分極の変動に2点である。電気抵抗の変動については一定の成果をあげられた。上部電極を取り除くことなく伝導パスを可視化することに成功し、さらには、伝導パス形成位置とデバイス寿命との相関を解明できた。一方、自発分極の変動に起因するコントラストは未だ観測に成功しておらず、試料構造の改善に取り組んでいる。上部電極に酸化物半導体を用いることで分極の向きに対応した光電子シグナルを検出できつつあり、より試料構造や測定条件を最適化することで分極の変動を観察できることが期待される。それゆえ上記の判断とした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、昨年度に観測に至らなかった分極コントラストの観測と、分極の変動を可視化することに注力する。試料構造および実験条件を最適化し、自発分極の可視化およびサイクリングストレス印加に伴う自発分極量の変動を調査する。さらに、より効率的に実験が進められるよう、オペランド観察システムの開発も進める。これらにより、ハフニア系強誘電体の分極変動のメカニズム解明を目指す。
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備考 |
本年度に発表した研究成果の一部について、研究機関を通してプレスリリースを行った。
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