研究課題/領域番号 |
23K13529
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
野村 怜佳 東北大学, 災害科学国際研究所, 助教 (50900320)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 津波 / 防潮林 / 樹木の「かたち」 / L-system / 数値流れ実験 / 安定化有限要素法 |
研究実績の概要 |
本年度はL-systemと呼ばれるアルゴリズムをPythonによって実装し,オープンソースのメッシングソフトと統合することで,樹木モデルの3次元形状生成・メッシングが一気通貫で実行できるツールを開発した.また,完成したツールを用いて生成した2種の樹木モデルに対して,マルチスケール評価における「ミクロ流れの評価」,すなわち数値流れ実験を先行的に実施した. L-systemとは,部分構造と全体構造が相似もしくは同形となる,「自己相似性」を形式文法によって表現するアルゴリズムであり,たとえばa → ab(文字aから,文字列abが生成される)やb→bcb(文字bから文字列bcbが生成される)というような形式文法のルールを反復させることで,「a」⇒「ab」⇒「abbcb」⇒…というように,文字列が生成される.今年度は,この形式文法の文字列それぞれに,枝・幹が「伸びる」「分岐する」「直径が縮む」「分岐する際に傾く」などの意味を与えるGMT(Aono and Kunii 1984)を利用することで,簡単なルールから樹木の複雑な3次元形状を効率的に生み出し,またそれらをCADやメッシングソフト上でレンダリング・メッシングすることを達成した. また,海岸林の実地調査に関する既往報告を参照することで,「支柱根」と呼ばれる特徴的な根形状のマングローブ(ヤエヤマヒルギなど)を模した樹木モデルと,枝などが上部に位置する針葉樹(クロマツなど)を模した樹木モデルの2つを生成し,これに対して,数値流れ実験を実施した.具体的には,安定化有限要素法及びフェーズフィールド法を用いた3次元自由表面流れ解析を樹木モデルが設置された水路内で実施することで,樹木の形状に起因して発生する複雑な抵抗力の観察・特徴量評価行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2023年度は,要素技術の開発及び,数値流れ実験の実施までをおおよそ当初計画していた通りに進捗させることができた.また,先行して作成していた3次元樹木モデルの試作を用いて,数値流れ実験を実施したところ,樹木の抵抗力の表現には従来用いられてきた抗力項に加え,体積およびその3次元形状を考慮に含めることの必要性を例証することができ,国内・国際会議での発表(計2報)及び査読付国際誌(Impact Factor: 3.31)へのオープンアクセス論文掲載などを完了させることができた. 当初計画通りの技術開発状況に加えて,想定以上のアウトリーチ活動が叶えられていることから,きわめて順調な進捗状況であると捉えている.
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今後の研究の推進方策 |
おおむね,当初計画通りに研究を推進していく.次年度は,今年度開発した作成した3次元樹木形状生成ツールによって生成した2種の樹木モデルに対して,当初計画に則り,数値流れ実験を複数実施する.これにより,水深や流速,及び樹木の形状が,抵抗力にどのような影響をもたらしているか,評価を行い,特徴量として関数化する.この関数を,二次元鉛直方向平均流れの支配方程式である2次元浅水長波方程式に実装することで,複雑な形状がもたらす津波減衰効果を効率的に評価可能なフレームワークを完成させる.
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