研究課題/領域番号 |
23K13587
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
甘利 俊太朗 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30837737)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 晶析 / 粒子群特性 / 核化 / 温度応答性ポリマー / 溶媒和 |
研究実績の概要 |
晶析によって所望の特性を有する結晶粒子群を獲得するためには、核化の制御が重要である.核化では、結晶化物質の脱溶媒和によって結晶の核が形成される。本研究では,結晶化現象の脱溶媒和過程に着目し,結晶化物質の脱溶媒和を促進することが予想される第三成分の導入が核化現象に与える影響を検討した。 実験系には、溶解度の温度依存性に関するデータがあり、結晶化熱による溶液の温度上昇から核化のタイミングを推定することが可能なタウリン(結晶化物質)-水(溶媒)の二成分系を用いた。タウリン飽和水溶液に対して、脱溶媒和を促すと考えられる第三成分として、温度に応じて膨潤・収縮挙動を示すポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)を添加し、冷却晶析を行った。溶液の温度変化からタウリンが水溶液中で核化したタイミングを推定し、SEMを用いて最終的に得られた結晶粒子群を観察し、その特性を評価した。 その結果、PNIPAMの添加によって、タウリンの核化温度は変化することがわかった。さらに、PNIPAMを添加しなかった場合に比べて、PNIPAMを添加した場合では核化温度の分布幅が小さくなることも明らかになった。また、SEMを用いて得られた結晶粒子群の外形を評価したところ、PNIPAMの添加によりアスペクト比と粒径のばらつきを示すCVN値が改善していた.これは、PNIPAMの添加によって、過飽和が低い条件で核化のタイミングを揃えられたことに起因していると考えられる。 以上より、温度に応じて相転移挙動を示すPNIPAMが核化トリガー効果を有することが明らかとなり、析出する結晶粒子群の特性も変化することを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表的な温度応答性ポリマーであるPNIPAMの有無が結晶化のタイミングに及ぼす影響を明らかにすることができた。さらに、PNIPAMの有無によるによる核化のタイミングの違いに起因して、析出する結晶粒子群の特性が変化していることも見出し、温度応答性ポリマーを用いた核化の制御に関する基礎的知見が着実に得られていることから、現時点では、概ね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの実験結果よって核化トリガー効果を有することが明らかとなったPNIPAMそのものの性質が核化現象に及ぼす影響について検討する。特に、当初の研究計画で挙げていた鎖長や官能基が異なるPNIPAMを用いた晶析実験を実施して、膨潤時の溶媒和状態や、結晶化成分との濃度比の違いが核化のタイミングおよび結晶粒子群の特性に及ぼす影響について検討することで、温度応答性ポリマーを用いた核化制御に関する新たな知見の獲得が期待される。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の遂行にあたり、温度応答性ポリマーが核化現象に与える影響を調査するために実験で使用する温度応答性ポリマーや結晶化物質を選定する過程にて試行錯誤を繰り返すことを予想していたため、初年度の経費は様々な試薬や新しい実験を行うための器具を購入するために使用する予定であった。しかし、幸いなことに市販品の中でも比較的安価なPNIPAMとタウリンを実験系として用いることで1年目の計画内容を検討することができたため、初年度の経費は大幅に節約できた。 未使用分については、次年度の研究計画を効率的に遂行するために、実験装置の増設や物性が異なるPNIPAMを合成するための一連の実験環境の整備に使用することを予定している。
|