研究課題/領域番号 |
23K13635
|
研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
張 文金 東京都立大学, 理学研究科, 特任助教 (20962666)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | ナノ材料 / 半導体物性 / ナノ光科学 / モアレ超格子 / 二次元ファンデルワールスヘテロ構造 |
研究実績の概要 |
化学気相成長した遷移金属カルコゲナイドで合成した単層遷移金属カルコゲナイドを使用して、大気中で六方晶窒化ホウ素(hBN)と垂直に積み重ね、さまざまな積層角度のヘテロ構造を作製した。試料のフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを測定した結果、積層角度が0度と60度に近くなった場合に、室温においても発光スペクトルが大きく変化することを確認した。また、作製したヘテロ構造は、カソードルミネッセンスで局所的な発光スペクトルを測定し、バブルが形成した位置で試料の発光スペクトルが抑制することを明らかにした。断面の走査透過電子顕微鏡観察とEDS元素分析により、層間のバブルには炭素を含む不純物が存在することが示された。この研究成果は研究論文としてまとめ、英国王立化学会が出版する『Nanoscale Advances』に掲載された。 層間不純物の抑制を目指し、原子置換手法を用いたモアレ超格子の形成に関する研究を行った。具体的には、二層MoSe2等に対し、表面のカルコゲン原子をSeからSに置換することで、MoSSe/MoSe2ヤヌス二層遷移金属カルコゲナイドを作製した。この手法では、化学気相成長で合成した二層TMDC試料を使用するため、TMDCの層間に不純物が含まれない。ヤヌス二層ヘテロ構造の形成はプラズマ処理を利用して行い、ラマン分光およびPL分光により元素置換が確認された。走査透過電子顕微鏡により、格子不整合に起因したモアレ超格子を直接間接することに成功した。また、低温でPLスペクトルを測定し、線幅の狭い複数のピークが観測された。これらは、モアレ構造に束縛された励起子の形成を示唆している。これらの結果は、研究論文としてまとめられ、ナノ材料分野の主要な雑誌の1つである『Small Structures』に採択された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、化学気相成長法で合成したTMDCのモアレ超格子の光物性に関する研究を行った。特に、ドライ転写法の進展より、様々なhBN内包ツイスト二層をドライ転写で効率的に作製することに成功した。また、新しいヤヌス型TMDCを含む積層ヘテロ構造を作製した。これらの2件の主要な研究成果を論文として発表した。以上の理由により,本年度の研究は当初の計画以上に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、より高い清浄性を持つ試料作製に向け、気相成長法でhBN基板上に直接合成したTMDC積層ヘテロ構造の研究を中心に進める。試料に関しては、低温での発光スペクトルの測定のために、hBNを上部に重ね試料の保護に用いる。また、TMDC表面に存在する不純物を除去するため、真空アニールや原子間力顕微鏡による平坦化を行う。また、低温での発光スペクトルを低いレーザー強度で測定できるよう、顕微発光分光装置の高感度化を行う。発光スペクトルの励起光強度依存および時間分解測定より、層間励起子やモアレ超格子に由来する励起子間の相互作用について解明を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和5年度に、光学系の構築に関して光学素子の納期の都合より未使用額が生じた。このため、未使用額は次年度の経費に充てる。
|