研究実績の概要 |
本研究では、4f電子系で最大の磁気モーメントを持つEu2+イオンを含み、結晶構造に磁気フラストレーションを有するEu化合物に着目し、薄膜化による歪みの印加・人工的積層構造の作製などのエピタキシャル制御を通して、波数空間の電子状態のトポロジーや実空間でのスピン配置が密接に関わるトポロジカル伝導現象を開拓することを目指す。本年度では、以下の成果があった。
Eu三角格子を持つトポロジカル物質EuM2X2(M=Cd,Zn, X=As,Sb)の薄膜化とその電子状態およびトポロジカルな磁気輸送輸送特性の評価を行った。単一のワイル点ペアを持つ物質として理論予想されていたEuCd2As2について、分子線エピタキシー法による薄膜化と低キャリア濃度の実現に初めて成功した一方で、熱活性型の絶縁体的輸送特性を観測し、EuCd2As2が当初の理論予想とは異なり、バンドギャップを有する電子状態を持つことを実験的に明らかにした。また、多数のワイル点ペアを持つEuCd2Sb2薄膜において、ワイル点に由来する巨大異常ホール効果に加えて、基底状態のA型反強磁性秩序から強制強磁性状態へ至る磁化過程で、ホール抵抗と磁気抵抗に非単調なピーク構造が現れることを新たに発見し、理論計算との比較から、それらがともに磁化過程でのベリー曲率の非単調な変化に対応していることを明らかにした。
新規物質開拓として、Euの歪んだ三角格子を持つEuCd2,EuZn2の薄膜化にも取り組み、初めて高品質なエピタキシャル薄膜を得ることに成功した。また、従来反強磁性秩序を示すことのみが報告されていた同物質群において、異常ホール効果だけでなく、バルクの非自明なスピン秩序に由来すると考えられるトポロジカルホール効果、そして、磁気転移磁場付近で急峻に増大する非単調なホール効果を観測した。
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