研究課題/領域番号 |
23K13670
|
研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
足立 寛太 岩手大学, 理工学部, 助教 (50823879)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 超音波共鳴法 / ペロブスカイト型酸化物 / 相転移 / ひずみ / 弾性定数 / 内部摩擦 |
研究実績の概要 |
本年度は高温環境下における超音波共鳴法計測装置を構築した。片側に圧電トランスデューサを取り付けた2つのアルミナ棒で試料を挟み込む従来の計測装置では、試料の共鳴ピークだけでなくアルミナ棒の共鳴ピークも顕著に観測されるため、温度変化に伴いこれらが重なり合い、試料の共鳴ピーク周波数(共鳴周波数)と共鳴ピークの半値幅(内部摩擦)の測定精度が低下する。この問題を解決するために、本研究では片側に圧電トランスデューサを取り付けた二本の石英ガラス針と一本の針状熱電対から構成される三点支持体の上に試料を設置する三点支持型の計測装置を構築した。この測定系では石英ガラスの共鳴ピークが大幅に抑制されるだけでなく、試料に保持力が働かないため、理想的な自由振動を励起することができる。本装置を炉体開閉式の縦型電気管炉と組み合わせることにより、最大1400 Kまで計測可能な高温用超音波共鳴法計測装置を構築した。また、既存の逆解析プログラムを修正し、有限要素法により計算した共鳴周波数を計測値と比較し、これらが十分に一致する各弾性定数の値を最小二乗法により求めることで試料の弾性定数を決定するプログラムを作成した。これにより、原理的には、直方体や球などの規則形状を持たない試料に対しても、共鳴周波数の計測・逆解析により全ての弾性定数を計測することが可能になった。本プログラムを複雑な多角形形状を持つ多結晶金属材料に適用し、等方性材料(独立な弾性定数が2つ)に対しては従来の逆解析プログラムと同程度の精度で弾性定数を決定可能であることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、高温環境下における超音波共鳴法計測装置の構築が完了し、既存の逆解析プログラムの修正にも着手することができた。水晶の相転移温度に基づく高温用計測装置の温度校正も完了し、大気下において最大1400 Kまでの温度域で弾性定数と内部摩擦の温度依存性を計測する環境が整った。また、本計測装置の有用性を高めるために、細かい温度刻みでの連続的な共鳴周波数計測を全自動で行うための計測制御プログラムを新たに作成した。逆解析プログラムの修正に関しては、「有限要素法による共鳴周波数の計算の組み込み」と「不規則形状の試料に対する振動モード同定法の確立」という2つの課題のうち前者はすでに完了し、等方性材料に対する適用を通じて修正箇所の検証も行うことができた。以上より現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
計測中の試料の酸化を防ぐために、高温用超音波共鳴法計測装置一式を組み込むことができるチャンバーを作製し、不活性ガス雰囲気下での計測を可能にする。また、不規則形状の試料に対する振動モード同定法の確立にも取り組む。本年度実施した予備的検討により、研究開始時に予定していたベイズ推定を利用する方法では任意の形状を持つ試料に対して確実に振動モードを同定することは困難であることが示唆されたため、別の手法による振動モード同定法を検討する。これらの課題が完了次第、様々なペロブスカイト型酸化物に対して本手法を適用し、ペロブスカイト型酸化物の種々の相転移に伴う弾性・非弾性異常の計測法としての本手法の有用性を実証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画よりも進展があったため、令和6年度に着手する予定であった高温環境下における超音波共鳴法計測装置の構築を令和5年度中に着手するために、前倒し支払請求を行った。本年度中に大気下における計測装置の構築は完了したが、本装置の不活性ガス雰囲気下への拡張は次年度も引き続き行う必要があり、研究経費の次年度使用が生じた。本経費は不活性ガス雰囲気下での計測を可能にするためのチャンバーの作製に使用する予定である。
|