研究課題/領域番号 |
23K13687
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大平 直也 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (60881084)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 液体金属 / 気泡挙動 / 中性子イメージング |
研究実績の概要 |
鉛・LBE(鉛ビスマス共晶合金)冷却の原子炉では、液体金属と軽水・水蒸気が熱交換器を介して熱交換することで蒸気を発生させ、発電を行う構造になっている。この熱交換器になんらかの破損が起こると、液体金属・蒸気二相流が発生し、一部の蒸気泡は炉心内に輸送され、これらが原子炉の出力に影響を及ぼすと考えられる。しかしながら、巻き込まれる可能性のある気泡サイズ等の知見は現状ほとんどない。 そこで本研究ではまず、中性子ダイナミックイメージングを用いて液体LBE中における気泡挙動を詳細に観察する実験を行った。実験は幅100 mm、奥行20mm、高さ300mmの直方体型のステンレス製容器を加熱し、液体金属を溶融させ、内部に設置したそれぞれのノズルから一本ずつ窒素ガスを流し気泡を発生させて行った。この容器に熱中性子を照射し、透過した中性子で高速度撮像を行うことで、得られた画像のコントラスト差により気泡の上昇挙動を観察できる。本研究で行った実験は、JRR-3施設内のTNRFで行った。 気相の流量と発生した気泡の頻度から、観察できた気泡径は3.0~6.5mm程度だと考えられる。これらの気泡に対する上昇速度をそれぞれ評価すると、既存の式とよく一致することが分かった。液体金属中における気泡挙動を明らかにした研究例は少なく、さらにLBE 中における気泡挙動を明らかにした例はこれまでなかったため、既存の式でLBE中の気泡挙動を記述できると確認できたことは非常に重要であった。今後は、得られた結果をもとに液体金属の下降流中で任意の大きさを持つ気泡を発生させ、気泡の巻き込み挙動を中性子イメージングにより観察し、その挙動を明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中性子ダイナミックイメージングを用いて液体LBE中における気泡挙動を詳細に観察する実験を行った。実験は幅100 mm、奥行20mm、高さ300mmの直方体型のステンレス製容器を加熱し、液体金属を溶融させ、内部に設置したそれぞれのノズルから一本ずつ窒素ガスを流し気泡を発生させて行った。この容器に熱中性子を照射し、透過した中性子で高速度撮像を行うことで、得られた画像のコントラスト差により気泡の上昇挙動を観察できる。本研究で行った実験は、JRR-3施設内のTNRFで行った。 一般的に、液体金属中で発生する気泡径はノズルの外径に依存するため、ノズル外径を0.2~10 mm で変化させ、それぞれのノズルから発生させた気泡の挙動を観察した。今回行った実験では、ノズル径1.06mm未満のノズルから発生した気泡については、得られた画像のコントラスト差が不十分で気泡挙動を評価することはできなかった。気相の流量と発生した気泡の頻度から、観察できた気泡径は3.0~6.5mm程度だと考えられる。これらの気泡に対する上昇速度をそれぞれ評価すると、Tomiyamaらによって提案された式とよく一致することが分かった。Tomiyamaらの式は幅広いMo数とEo数に対して一致することが確認されており、本研究で行ったLBE中における気泡でもよく一致することが確認された。 液体金属中における気泡挙動を明らかにした研究例は少なく、LBE中における気泡挙動を明らかにした例はこれまでなかったため、既存の式でLBE中における気泡上昇挙動を記述できると確認できたことは非常に重要であった。したがって、本研究で当初予定していた成果を上げることができたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
先に述べた通り、昨年度は概ね当初の予定通りに研究成果を上げることができたが、実験装置の改良に時間を取られたため、実験の実施に遅れが生じ、現在は今年度行う予定の実験装置の設計・製作には取り掛かれていない。今年度は液体金属の下降流中に任意の大きさの気泡を発生させ、その巻き込み挙動を観察する予定であるが、まず液体金属の流速を測定するために、カドミウムトレーサーの製作が必要である。そのためにまず、液体金属用のトレーサーの製作にとりかかる予定である。それに合わせて下降流を発生させる装置の設計・製作および稼働テストに取り組む。昨年度に液体金属が配管中で凝固してしまい、実験中止に追い込まれたことなどもあったため、これまでの問題点を踏まえた上で実験装置の設計・製作をすることで装置の改良等に時間を取られずに研究を遂行できると思われる。 JRR-3のマシンタイムの関係もあり、実験の実施予定は2025年1月であるため、今年度中はおそらく、実験で得られた画像の解析や論文の執筆にかけられる時間があまり多くとれないと思われる。したがって成果の公開が遅れる可能性はあるが、今年度中に実験を終えることができるため、問題はない。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に実験装置の製作に関して購入予定だった消耗品があったが、研究室で保有するもので代替できることに気づいたため、購入不要になった。昨今続く物品の値上がりもあるため、昨年度に余った金額を繰り越して本研究に必要な消耗品費に充てる予定である。
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