研究課題/領域番号 |
23K13712
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
長谷川 誠樹 早稲田大学, 理工学術院, 助教 (50962487)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | Mie共鳴 / シリコンナノ球 |
研究実績の概要 |
微小領域における光の制御は,光物理化学において最も重要な課題の一つである。これに有望なのが,貴金属ナノ粒子および高屈折率半導体ナノ粒子である。貴金属ナノ粒子に誘起されるプラズモン共鳴は,光電場を非常に強く閉じ込める一方で,金属の抵抗損失に起因して光磁場の閉じ込めが弱い。半導体ナノ粒子は,Mie共鳴により,光電磁場を閉じ込めることができるものの,光電場の閉じ込めが貴金属ナノ粒子に比べて非常に弱い。キャリアドープした半導体ナノ粒子は,両者の欠点を補った高い光電磁場閉じ込めが実現できる可能性がある。本研究では,キャリアドープシリコンを作製し,その光電磁場閉じ込め効果の評価を行うことを目的とした。また,シリコンナノ粒子に誘起される磁気共鳴に着目し,その光機能を開拓することを目指す。2023年度は,シリコンナノ粒子に誘起される磁気共鳴の特性を解明するため,電磁気学計算に取り組んだ。軌道角運動量を持つ入射光を用いることにより,シリコンナノ粒子に誘起されるMie共鳴の磁気モードを選択的に励起可能であることを明らかにした。また,励起条件を整えることにより,通常の直線偏光励起時よりも効率的に磁気モードを誘起可能であること,磁気モードの誘起を抑制できることを解明した。これらの結果は,シリコンナノ粒子,キャリアドープシリコンナノ粒子の光物性を変調可能であることを示し,これらの光機能の開拓を進めるにおいて非常に重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における2023年度の目標は,キャリアドープシリコンナノ粒子を作製し,その光電磁場閉じ込め効果の評価を行うことであった。しかし,今年度中にこれを達成することはできなかった。その一方で,当初計画していなかった特殊な偏光を持つ励起光を用いたシリコンナノ粒子の光物性制御に着手した。通常の直線偏光励起時において,シリコンナノ球にはMie共鳴の磁気・電気モードが誘起される。中でも磁気双極子モードは,分極が大きく,共鳴が広帯域にわたるため注目を集めている。軌道角運動量を持つ入射光を用いることにより,シリコンナノ粒子に誘起される磁気双極子モードを選択的に励起可能であることを明らかにした。また,励起条件を調整することにより,通常時よりも磁気双極子モードの励起確率を向上可能であること,別の励起条件下では磁気モードの励起確率を抑制できることを解明した。これらの結果は,励起条件によってシリコンナノ粒子,キャリアドープシリコンナノ粒子の光物性を変調可能であることを示し,これらの光機能の開拓を進めるにおいて非常に重要な知見である。また,シリコンナノ粒子の比較対象として,金ナノ球を対象に励起光の変調によるプラズモン共鳴特性制御にも着手した。金ナノ球二量体近傍の非線形発光励起分布が入射場に強く依存することを実験的に解明した。上記内容から,当初の研究計画とは異なるものの,本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終的な目標は,キャリアドープシリコンナノ粒子の光機能開拓である。そのため,2024年度は,2023年度に達成できなかったキャリアドープシリコンナノ粒子を作製およびその光電磁場閉じ込め効果の評価に取り組む。キャリアの種類やドープ量が,シリコンナノ粒子の光学特性,光電磁場閉じ込め効果に与える影響を明らかにすることにより,シリコンナノ粒子の光物性に関する本質的理解を目指す。また,当初計画しておらず,2023年度に着手した,励起光の変調によるシリコンおよび金ナノ粒子の共鳴特性制御も引き続き研究を進める。現状,入射光の偏光状態を調整することによってナノ粒子の光物性を制御可能であること示す電磁気学計算および実験結果が得られている。キャリアドープシリコンナノ粒子に対して,これらの手法を適用することにより,同様に光物性を制御可能であると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度調達予定であった物品の納入が遅れ,2024年度にずれ込んだため。次年度使用額は当該物品の調達に利用予定である。
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