研究課題/領域番号 |
23K13728
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
福井 智也 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (40808838)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ブロック共結晶 / シード結晶化 / 超分子集合体 / スピンクロスオーバー / 金属錯体 |
研究実績の概要 |
結晶を一つの分子集合体のコンパートメントと見なし、シームレスなヘテロ接合界面を有する一つの構造体を構築できれば、単一成分の結晶では見られない協同的な機能を創発できると期待できる。本研究の目的は、研究代表者が偶然発見した「異種の金属錯体結晶をコンパートメント として集積化したブロック共結晶の構築における結晶面選択的なシード結晶化」の機構を解明し(研究課題1)、そこで 明らかになる新知見に基づき、多彩な構造様式をもつブロック共結晶(研究課題2)や異なる配位子をもつ金属錯体の結晶同士がヘテロ接合したブロック共結晶を構築(研究課題3)するための方法論を確立することである。以上の取り組みを通じ、従来の研究の延長線上にはない、面選択的シード結晶化を用いたブロック結晶の空間配列制御に基づく機能物質創製を目指す。 2023年度は、研究課題1および2に取り組んだ。4-アミド-2,6-ビス(ピラゾリル)ピリジン(adpp)を配位子として用い、鉄(II)イオンもしくはコバルト(II)イオンと錯形成をさせることで、鉄錯体(Feadpp)とコバルト錯体(Coadpp)を得た。これらは、それぞれ異なる空間群を持つ結晶を与えた。Feadppの結晶をシードとしてCoadppを結晶化させた場合、ブロック構造は得られず、それぞれ単成分の結晶が得られた。一方、FeadppとCoadppの混合溶液にFeadppの結晶をシードとして添加すると、シード界面からFeadppとCoadppの混晶が成長することでブロック共結晶が得られた。興味深いことに、混晶におけるFeadppとCoadppの割合に応じて、シードから結晶化する際の面選択性が生じた。詳細な解析の結果、この面選択性は、FeadppシードとFeadpp/Coadpp混晶の結晶学パラメータのミスマッチに由来することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、研究課題1と研究課題2に取り組んだ。 研究課題1において、4-アミド-2,6-ビス(ピラゾリル)ピリジン(adpp)を配位子として用い、鉄(II)イオンもしくはコバルト(II)イオンと錯形成をさせることで、鉄錯体(Feadpp)とコバルト錯体(Coadpp)を得た。これらは、それぞれ異なる空間群を持つ結晶を与えた。Feadppの結晶をシードとしてCoadppを結晶化させた場合、ブロック構造は得られず、それぞれ単成分の結晶が得られた。一方、FeadppとCoadppの混合溶液にFeadppの結晶をシードとして添加すると、シード界面からFeadppとCoadppの混晶が成長することでブロック共結晶が得られた。興味深いことに、混晶におけるFeadppとCoadppの割合に応じて、Feadppシードから結晶化する際の面選択性が生じた。詳細な解析の結果、この面選択性は、FeadppシードとFeadpp/Coadpp混晶の結晶学パラメータのミスマッチに由来することが明らかになった。 研究課題2においては、研究課題1で明らかになったシード結晶化における面選択性を利用して様々なモルフォロジーを持つブロック共結晶の作製に取り組んだ。その結果、シード結晶化においてCoadppの溶液に対してFeadppを5 mol%のみ添加することで、Feadppシードの両端からのみFeadpp/Coadpp混晶の結晶化が進行し、ダンベル型のブロック共結晶が得られた。Feadppの添加量を増やすと、シード結晶化における面選択性が低下し、Feadppシードの側面からFeL/CoL混晶の結晶化したシート状のブロック共結晶が得られた。以上から、結晶学パラメータのミスマッチに基づき、ブロック共結晶の形態を制御することに成功した。 以上が現在までの進捗状況であり、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、(研究課題3)異なる配位子をもつ金属錯体の結晶同士がヘテロ接合したブロック共結晶を構築に取り組むとともに、これまで得られたブロック共結晶の磁性を評価する。具体的な配位子としては、研究課題1および2で用いた4-アミド-2,6-ビス(ピラゾリル)ピリジン(adpp)とともに、4位をカルボキシ基に改変した4-カルボキシ-2,6-ビス(ピラゾリル)ピリジン(cdpp)を用いる。これまでの検討の結果、adppを配位子とする鉄錯体Feadppの結晶をシードとしてcdppを配位子とするコバルト錯体Cocdppの結晶を成長させた場合、シード界面からの結晶化が進行することを明らかにしている。しかし、シード結晶化におけるブロック共結晶の収率が低いため、結晶構造の解析を含むキャラクタリゼーションができていない。シード結晶化におけるブロック共結晶の収率向上を目指し、結晶作製条件を最適化を目指す。その際、顕微鏡を用いた結晶化のその場観察を行うことで、結晶成長における面選択性の発現の有無について明らかにする。また、FeadppとFecdppはどちらも温度変化によりスピン状態がスイッチするスピンクロスオーバー錯体であるため、FeadppとFecdppをブロックとするブロック共結晶は、一つの結晶コンパートメントの中に二つのスピン状態を有する構造体になり得る。したがって、FeadppとFecdppをブロックとするブロック共結晶の作製にも取り組むとともに、その磁性についてMPMSを用いて評価する。 以上の取り組みを通じ、本研究の目的を達成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度において、また、ブロック共結晶の作製に用いた配位子ならびに金属錯体の合成、キャラクタリゼーション、単結晶X線構造解析等が予想以上にスムーズ に進行したため、当初計上した物品費、その他の経費よりも効率的に予算を使用することができた。以上の理由により次年度使用額が生じた。2024年度は、 ブロック共結晶の物性評価のため、大学の共通設備であるMPMSなど、高価なヘリウムを大量に使用する測定を数多く行うことを予定してい る。したがって、次年度使用額の大部分は共通設備の使用料として計上する。また、2023年度は配位子合成に係る予算を非常に効率的に使用することができたこ とから、今年度検討に用いる配位子のライブラリーを当初の計画よりも充実させるために、配位子合成に必要な試薬の購入費として計上する。
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