研究課題/領域番号 |
23K13750
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
山下 賢二 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (50851911)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ハロゲン化 / 不斉反応 / 環化反応 / ホスフィンオキシド / ルイス塩基 / ブレンステッド塩基 / ハロゲン結合 / ジフルオロアルケン |
研究実績の概要 |
フッ素はその特異な性質から、化合物に導入することで代謝安定性の向上、生物活性の増強、新機能の発現などが期待できる。そのため、医薬品や農薬などの生命科学分野で広く利用されている。近年では、カルボニル基やスルホニル基、エーテル結合などの生物学的等価体として機能するジフルオロメチレン基が注目されており、様々なジフルオロメチレン含有医薬品が開発されている。これら医薬品の多くは、不斉炭素中心にジフルオロメチレン基を有するヘテロ環骨格を共通の部分構造としている。しかし、こうした構造モチーフを簡便かつ効率的に構築する不斉触媒反応はほとんど開発されていない。 一方、不斉ハロ環化反応はハロゲンを含むキラルヘテロ環を構築する有力な手法の1つである。最近我々は、プロトン架橋型キラルビスホスフィンオキシド錯体(POHOP)が不斉ブロモ環化反応の触媒前駆体として機能し、系中で極めて活性の高いキラルブロモ化剤が生じることを見出している。本知見に基けば、求電子的官能基化が困難な電子不足アルケンであってもブロモ化できると考えた。特に、ジフルオロアルケンに対する不斉ブロモ環化に利用できれば、上述した構造モチーフを一段階で構築できるようになり、合成的有用性が高い。そこで、実際にPOHOPを触媒前駆体としてジフルオロアルケン(アリルアミド)に対するブロモ環化反応を検討した。その結果、期待通り環化反応は極低温下でも円滑に進行した。興味深いことに、環化の位置や立体選択性は溶媒や触媒構造、ブロモ化剤により大きく変化することがわかった。そこで、条件を種々検討したところ、ジフルオロメチレン基を含む四置換不斉炭素を有するオキサゾリン化合物、またはオキサジン化合物を高立体選択的につくり分けることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初の研究計画に従いアミドを求核部位としたジフルオロアルケン基質のブロモ環化反応を検討した。初期検討で有望な結果が得られ、反応条件の最適化も速やかに終えることができた。また、反応条件の最適化を行う過程で、環化の位置や立体選択性が制御可能であることを見出した。本研究成果は既に論文化(2報)しており、現在は求核部位の適用範囲拡大や他の電子不足アルケンに対する不斉ブロモ環化反応の開発に取り組んでいる。以上のことから、本研究課題は「おおむね順調に進展している。」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に従い、求核部位の拡張を目指す。具体的には、スルホンアミドやフェノール、カルボキシ基を求核部位としたジフルオロアルケンのブロモ環化反応を検討する。これらの官能基はホスフィンオキシドと水素結合を形成することが知られているが、実際に水素結合を介して活性化可能か検証する。 また、ジフルオロアルケンの不斉スルフェノ環化反応についても検討する。アルケンの不斉スルフェノ環化反応は、スルフェニル化剤が「ソフト」な性質を有するため、「ソフト」なカルコゲンLewis塩基触媒が用いられることがほとんどで、「ハード」なLewis塩基触媒が適用された例はない。今後の研究では、不斉ハロ環化に有効であったキラルビスホスフィンオキシドのLewis/Bronsted塩基協奏触媒作用が、不斉スルフェノ環化反応にも適用できるかを検証し、未だに報告例のないジフルオロアルケンの不斉スルフェノ環化を実現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
立案した研究計画よりも早い段階で反応条件の最適化が完了したため、基質や触媒合成に必要な試薬購入費を低く抑えることができた。また、得られた生成物のエナンチオマーは保有していたキラルカラムで分離可能であったため、今年度はキラルカラムの購入が必要とならなかった。以上の理由により次年度使用額が生じた。次年度は、合成法が確立されていない基質や触媒を合成する必要があるため、試薬や溶媒、ガラス器具などの購入機会が増えると想定される。また、経年劣化で分離能が低下しているキラルカラムが幾つかある。従って、次年度の経費はそれらの購入費に計上する予定である。
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