研究課題/領域番号 |
23K13753
|
研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
榊原 陽太 関西学院大学, 理学部, 助教 (60963220)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 光レドックス触媒 / 第四級アンモニウム塩 / ラジカル / 不斉反応 |
研究実績の概要 |
窒素原子上に正電荷を有する第四級アンモニウム骨格は、その特異な電気的、構造的特徴から有機分子触媒や医薬品、イオン液体、界面活性剤などの多くの有用分子の鍵骨格となっている。実際に第四級アンモニウム塩は、その生産量が年間500000トンを超えており、創薬分野から材料科学分野に至るまで多岐に亘り利用されている。しかし、有機合成の観点からみると、構築可能な第四級アンモニウム塩の構造は驚くほど少ない。これは、第四級アンモニウム塩の合成法が限られていることに起因する。現在においても第四級アンモニウム塩の主な合成法は、古典的な求核置換反応のように第三級アミンと求電子剤を反応されるという形式に依存している。そこで本研究では、新たなアンモニウム塩の合成手法を開発し、これを応用することでこれまでに汎用的な合成法が確立されていない窒素原子上の不斉が制御された第四級アンモニウム塩の合成を達成することを目的とする。この目的を達成するためにアンモニオ基に直接アルケニル基が置換したアルケニルアンモニウム塩を利用する。研究の第一段階では、光レドックス触媒を利用したラジカル反応による環化反応を開発することでアンモニオ基に隣接する環構造の構築に着手した。この反応については想定通り、アルケニルアンモニウム塩に対してジブロモメタンをラジカル前駆体として作用させることで良好な収率で反応が進行することを明らかにした。研究の第二段階では、この反応をジアルキニルアンモニウム塩の不斉非対称化へと応用することで不斉アンモニウム塩の合成を目指しており、現在検討を重ねている段階である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までにアルケニルアンモニウム塩をラジカル反応により修飾可能であることを明らかにしている。アルケニルアンモニウム塩は生体分子に含まれる構造であるにも関わらず、これまで有機合成にはほとんど用いられてこなかった化合物であるため、反応性に関する知見も皆無であった。そこでまず、アルケニルアンモニウム塩がアルキルラジカル種と反応し得るのかの調査から開始した。アルキルラジカルの発生法としては光レドックス触媒を用いた光反応を選ぶことで、第四級アンモニウム塩で一般的に起こりうる望まないHofmann脱離を抑制できると考えた。種々条件検討をおこなった結果、光触媒存在下、ラジカル前駆体としてブロモアルカン、ハロゲン引き抜き剤としてアミノシラン化合物を用いた条件でアルケニルアンモニウム塩のヒドロアルキル化反応が良好な収率で進行することを見出した。本反応は様々な構造のブロモアルカンに適用可能であり、第一級から第三級まで多様なアルキルラジカルがアルケニルアンモニウム塩と反応可能であることを明らかにすることができた。また、この条件を利用してラジカル前駆体をジブロモメタンへと変更したところ、当初予定していたアルケニルアンモニウム塩のシクロプロパン化反応に関しても問題なく進行することが明らかになった。また、研究の次の段階である不斉合成の原料に用いるジアルケニルアンモニウム塩の合成法の検討も同時に行っており、こちらの化合物に関しても問題なく合成可能であることを明らかにしている。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は今年度に開発したアルケニルアンモニウムの修飾反応を応用することで不斉アンモニウム塩の合成を目指す。既に不斉合成の原料に用いるジアルケニルアンモニウム塩の合成手法は確立しているため、不斉反応の条件検討から開始する。はじめに、市販されている化合物であるキラルなプロリンから合成したジアルケニルアンモニウム塩を用いて窒素原子上の不斉が制御されたアンモニウム塩の合成を目指す。この検討においてはプロリンエステル上の置換基の立体障害が不斉収率に大きく影響すると予想されるため、tBu基をはじめとする種々の嵩高い置換基を有する誘導体を合成し検討を行う。この合成系を確立した後には、より一般性の高い不斉アンモニウム塩合成を目指し、不斉水素結合供与体を利用する反応系の確立を目指す。アンモニオ基は正電荷を帯びていることに加えて、α位のC-H結合がアルコールに匹敵するほどの水素結合供与能をもつことが知られている。そのため、キラルリン酸のようなキラルな水素結合受容体を第四級アンモニウム塩へと添加することで、不斉補助基を導入せずともアンモニオ基の周辺に不斉環境を構築できると考えている。このキラル添加剤を利用した合成を確立することで様々な置換基をもつジアルケニルアンモニウム塩から直接不斉アンモニウム塩を合成することが可能となる。立体選択性の発現には用いる水素結合受容体の構造が大きく影響するため、キラルリン酸をはじめとする多様な構造をもつキラルな水素結合受容体を網羅的に検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究計画においては高価であるキラルな水素原子供与体を複数購入する際にもっとも予算が必要となる。今年度は不斉合成の前段階であるアルケニルアンモニウム塩の修飾反応についての研究を進めており、これらの高価なキラル試薬を購入しなかったため、未使用額が生じた。今年度の研究によって次年度のスタート時から不斉合成の検討を開始できる状況に既になっているため、次年度はこれらの高価なキラル試薬を複数購入必要があり、助成金を請求通り使い切る予定である。
|