研究課題/領域番号 |
23K13765
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
鈴木 航 兵庫県立大学, 工学研究科, 助教 (80966375)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 金ナノクラスター / 配位子設計 / 水素結合 / 配位子脱離 |
研究実績の概要 |
2023年度は、水素結合サイトを有する保護配位子ならびに、それらによって保護された金ナノクラスター(AuNCs)の合成を行った。まず、保護配位子として、メタ位にアセトアミドもしくはトリフルオロアセトアミド基を有するチオフェノール誘導体の合成を行った。また、合成過程で、チオールの酸化体であるジスルフィドを反応条件によって作り分けることができることを見出した。続いて、AuNCs前駆体に対する保護配位子の添加によって、金25量体クラスターの合成を試みた。アセトアミド基を有するチオフェノール誘導体では、チオールの添加によって、目的の金25量体の生成を確認することができたが、置換基がトリフルオロアセトアミドのチオールを用いた場合、異なる核数のAuNCsが生成した。一方で、トリフルオロアセトアミド体のジスルフィドをAuNCs前駆体に添加したところ生成物が劇的に変化し、目的の金25量体が選択的に生成することがわかった。チオールの代わりにジスルフィドを添加することで、生成するAuNCsの種類が変化した報告例はこれまでに全くないことから、ジスルフィドを活用した、新たなAuNCs精密合成手法の開発に成功した。 また、上記の研究と並行し、別のAuNCs表面環境制御手法として配位子脱離法にも着目した。チオラート保護金25量体に対して、強酸を添加すると一分子のチオラート配位子が位置選択的に脱離することを初めて見出した。また、配位子脱離後に生成した化学種の構造推定を行うとともに、配位子脱離体が脱離前と比較して高い反応性を示すことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、1)保護配位子ならびに金ナノクラスターの合成と同定、2)合成した金ナノクラスターの発光特性評価、を計画していた。 1)については、保護配位子の合成は完了し、それらによって保護された目的の金25量体クラスターの合成にも成功した。しかしながら、生成した金25量体の精製・単離操作が難航しており、その原子レベルの構造や、2)にて計画していた金ナノクラスターの光学物性への保護配位子の影響調査は未完了である。このことは、従来の一般的なチオラート配位子を有するANCsと比較して、表面にアミド基を有するAuNCsの溶解性等の物性が大きく変化したことに起因しているが、従来のAuNCsとは大きく異なる表面環境を有していることが予想され、当初の目的である「AuNCsの表面環境制御」の達成を示唆する結果である。加えて、「研究実績の概要」に記載した通り、当初は予定していなかった「AuNCs合成におけるジスルフィド体の活用の有効性」を初めて実証するなど、自ら設計した配位子構造に基づいた新たな知見を見出しており、研究は概ね順調に進行していると判断した。 また、当初の計画にはなかった、配位子が脱離した金ナノクラスターに関しても、本研究課題の主目的である「金属ナノクラスターの表面環境制御」と関連する内容である。このテーマに関しては、新たな配位子脱離手法の開発と、脱離体の構造推定を達成しており、これらの研究成果を国内学会で発表するとともに、学術論文も現在執筆中である。以上の結果も踏まえ、2023年度は、研究が順調に進行したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、水素結合サイトを有する金25量体の精製と単離を行い、その構造解析や光学物性、反応生評価が目的となる。精製方法はこれまでは、再結晶や遠心分離法を活用していたが、今後は、有機合成等で頻繁に用いられるカラムクロマトグラム法等の活用を計画している。また、本研究で初めて見出した、「ジスルフィドを用いたAuNCsの精密合成法」に関しては、対応するチオール体を用いた場合と生成物が劇的に変化する要因は未解明である。現在は、AuNCs表面とジスルフィドの反応における立体効果が起因している仮説を立てており、アミド基に限らず様々な置換基を有するチオールもしくはジスルフィドを系統的に設計・合成し、生成するAuNCsの構造を決定する原因を解明する。これらの結果は、国内学会で成果を公表するとともに学術論文として出版する予定である。「配位子脱離法」に関する研究は、まず、これまで得られた研究成果を学術論文として発表する。なお、配位子脱離後の化学種は熱的に不安定であり、構造解析の報告例はこれまで全くない。そこで、保護配位子の適切なデザインに立脚した配位脱離体の単離と構造解析を目指す。特に、水素結合性の配位子を活用による配位子間相互作用を活用した配位子脱離体の安定化を狙い、アセトアミド基を有するチオラート配位子の利用を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
大型放射光施設等への測定出張を予定していたが、当初想定していなかった、研究計画とは異なる興味深い結果が得られ、それに関する詳しい検討を行ったため、目的の測定を行うまで至らなかった。加えて、当初の計画からの変更に伴い、必要なサンプル量や合成すべき化合物が変更したことで、物品費に余裕ができたことが理由として挙げられる。2024年度は、研究が着実に進展した際に必要となる大型放射光施設を含めた共同研究先への出張旅費に用いる他、化合物の合成や合成法の改良等を行うための物品費としての使用を予定している。
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