研究課題/領域番号 |
23K13794
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
阿部 建樹 九州大学, 次世代接着技術研究センター, 学術研究員 (80973289)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 高分子材料 / 熱可塑性接着剤 / 固体界面 / 和周波発生分光測定 / 接着 |
研究実績の概要 |
2023年度は、熱可塑性接着剤のモデルとしてポリメタクリル酸メチル(PMMA)を用い、接着界面における局所配向と接着特性の相関について検討した。和周波発生(SFG)分光測定に基づき、熱処理前後での、PMMAと石英の界面における官能基の局所配向を評価した。その結果、熱処理後において、石英界面における主鎖メチレン基の配向が熱処理前のそれとは異なることが明らかになった。また、側鎖カルボニル基についても検討した結果、カルボニル基の伸縮振動に由来するピークの位置は、熱処理後に低波数へシフトした。これは、熱処理に伴う側鎖の再配向により、カルボニル基が石英基板表面に存在するシラノール基と水素結合を形成した結果であると理解できる。また、本系にSFG分光顕微鏡観察を適用し、石英界面におけるPMMA鎖の局所配向分布の可視化も試みた。その結果、熱処理後において、上記主鎖メチレン基、および、側鎖カルボニル基の伸縮振動に由来するSFG強度の増加が確認できた。このことから、本申請課題の達成目標の一つであった非晶性高分子の局所配向マッピングに成功したと結論した。また、石英界面におけるPMMAの剥離力を表面・界面物性解析装置に基づき評価した。PMMA/石英界面における剥離力は、熱処理後に著しく増大した。これらの結果から、接着界面における高分子の局所配向は接着特性に対する制御因子であることを明らかにした。また、位相敏感SFG分光測定と分子動力学シミュレーションに基づき、石英界面におけるPMMA側鎖エステルメチル基の局所配向の絶対評価を達成した。 これらの結果は、国際学会を含む学会で発表し、現在投稿論文としてまとめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
接着界面における高分子の局所配向は、剥離力や寿命等の接着特性に影響を及ぼすことが予想される。そのため、界面凝集状態と接着特性の相関の正確な理解は重要である。これまで、接着特性に対する影響因子に関する検討が盛んに研究されてきた。その結果、アンカー効果や静電相互作用モデルなど様々なモデルが提案されている。しかしながら、現実の接着現象を包括的に説明できるモデルは未だに存在しないのが現状である。また、接着剤は荷重がかかった状態で使用され、いずれ破壊に至る。そのため、接着界面における分子レベルの現象の解明、特に接着剤使用時の状況を踏まえて荷重がかかった状態や破壊直前における分子描像を明らかにするための検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
上記を踏まえて、2024年度は、変形や破壊直前における接着界面の官能基の局所配向に着目する。具体的には、界面選択的分光手法である和周波発生(SFG)分光測定やX線を数マイクロメートルまで集光させた散乱・回折測定を行うことで、接着界面およびその近傍における分子鎖凝集状態の空間分割評価を実行する。また、変形・破壊過程における接着界面での官能基の面内配向分布を評価するために、SFG分光顕微鏡を用いた検討も引き続き実施する。申請当初は、結晶/非晶界面からもSFGシグナルが得られる半結晶性高分子を試料とし、界面からのみSFG光が発生する非晶性高分子の系での評価が困難かと想定されていた。しかしながら、2023年度には、上述の通り、PMMA/石英界面における配向分布の観察に成功しており、申請課題当初に想定された測定の懸念点は突破している。これらの結果を統合することで、界面における分子鎖凝集状態を分子スケールで理解し、マクロな接着特性との相関の理解を深化させる予定である。
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