研究課題/領域番号 |
23K13884
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤田 健太郎 大阪大学, 大学院薬学研究科, 特別研究員(PD) (30975420)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | Major latex-like protein / ズッキーニ / X線結晶構造解析 / 有機汚染物質 / ウリ科 |
研究実績の概要 |
ウリ科作物ズッキーニから同定されたタンパク質であるMajor latex-like protein (MLP) は土壌中の有機汚染物質と根で結合し、複合体として導管へ分泌される。その結果、有機汚染物質は、MLPを介して地上部に輸送され、蓄積する。 ウリ科作物における有機汚染物質の蓄積には、立体選択性が存在する。平面構造の有機汚染物質に比べ、嵩高い構造の有機汚染物質は、高濃度に蓄積する。しかし、その立体選択的な蓄積メカニズムは解明されていない。本研究では、「MLPと有機汚染物質の結合における結合親和性が、立体選択的な蓄積を規定するか?」を問いとして、本年度は構造生物学的な観点から研究を進めた。 まず、MLPと嵩高い構造の有機汚染物質との複合体構造の取得を試みた。大腸菌での発現用にコドン最適化したMLPを大腸菌から精製した後、嵩高い構造の有機汚染物質とインキュベーションし、共結晶化に供した。結晶化条件のうちの1つで良く回折する構造解析が可能な結晶が得られた。嵩高い構造の有機汚染物質に一致する電子密度がMLPのキャビティ内で観察され、MLPと嵩高い構造の有機汚染物質との複合体構造の取得に至った。また、嵩高い構造の有機汚染物質と相互作用するMLPのアミノ酸を複合体の構造データから複数同定した。各位置に変異を導入したMLP (変異MLP) を作製し、磁性ビーズに固定化した嵩高い構造の有機汚染物質との結合親和性の評価を行った。変異MLPのうちの1ヶ所のアミノ酸が、嵩高い構造の有機汚染物質との結合親和性に関与する結果が得られた。 次に、平面構造の有機汚染物質とMLPの複合体構造の取得を、上記の嵩高い構造の有機汚染物質と同様の方法で試みた。しかしながら、MLPのキャビティには、平面構造の有機汚染物質に一致する電子密度が観察されず、帰属できない電子密度が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の大きな進捗として、MLPのX線結晶構造解析の確立が挙げられる。大腸菌から精製した組換えMLPと嵩高い構造の有機汚染物質の共結晶構造を得ることができ、以下に記す進捗があった。 MLPのキャビティ内には、嵩高い構造の有機汚染物質に一致する電子密度が鮮明に観察された。キャビティを構成する複数のMLPのアミノ酸が嵩高い構造の有機汚染物質と相互作用する様子が明らかになった。これにより、嵩高い構造の有機汚染物質との相互作用に関わるMLPのアミノ酸を同定した。各位置に変異を導入した変異MLP を用いて、磁性ビーズに固定化した嵩高い構造の有機汚染物質との結合親和性の評価を in vitroで行った。これにより、嵩高い構造の有機汚染物質との相互作用に重要な1アミノ酸の同定に至った。このアミノ酸に着目し、他のウリ科MLPの変異体を作製し、嵩高い構造の有機汚染物質との結合親和性の評価も行い、この1アミノ酸が有機汚染物質との結合に重要な意味をもつことが明らかになった。 次に、平面構造の有機汚染物質とMLPの複合体構造の取得を、上記の嵩高い構造の有機汚染物質と同様の方法で試みた。しかしながら、MLPのキャビティには、平面構造の有機汚染物質に一致する電子密度が観察されず、帰属できない電子密度が観察された。また、MLPと嵩高い構造の有機汚染物質の共結晶構造から、MLPのキャビティには平面構造の有機汚染物質の結合に必要な空間は存在しないことが明らかになった。 また、Biacore 1S+を用いた表面プラズモン共鳴法によるMLPと有機汚染物質の結合親和性の測定に向けた整備も行なった。MLPのC末端にAviタグを付加した組換えMLPの精製を行い、Biacore 1S+用のサンプルの調整を進め、次年度に測定できるように準備を整えた。 以上より、本研究は当初の計画通りにおおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に、変異MLPと嵩高い構造の有機汚染物質の結合親和性を、磁性ビーズに固定化した嵩高い構造の有機汚染物質を用いた簡易的なアッセイにより、in vitroで評価した。今後は、所属部局に新たに導入されたBiacore 1S+を用いて表面プラズモン共鳴法により、変異MLPと嵩高い構造の有機汚染物質の結合親和性を解離定数Kdを用いた定量を予定している。 一方、平面構造の有機汚染物質に関しては、MLPとの複合体構造が未だに得られていない。しかし、MLPと嵩高い構造の有機汚染物質の共結晶構造から、MLPのキャビティには平面構造の有機汚染物質の結合に必要な空間は存在しないことが明らかになった。そのため、平面構造の有機汚染物質は、MLP内部のキャビティではなく、MLP表面に結合するという仮説が導かれた。研究対象にしている有機汚染物質は高い疎水性を示すので、MLPの表面に高い疎水性を示す部位の探索を行う予定である。また、MLPと平面構造の有機汚染物質に関しては、共結晶構造を得ることに尽力するだけでなく、ドッキングシミュレーションによるin silicoからの構造予測、NMRによる溶液中の構造解析を行うことも検討している。 また、表面プラズモン共鳴法により、MLPと嵩高い構造と平面構造の有機汚染物質の結合親和性の定量も行う予定である。これにより、MLPが有機汚染物質の立体構造によって結合親和性が異なることを示す。 また、タバコ (Nicotiana tabacum) において作製したMLP遺伝子過剰発現体を嵩高い構造の有機汚染物質を含んだ汚染土壌で栽培し、MLP過剰発現体の葉をガスクロマトグラフィーに供する予定である。ウリ科作物は形質転換が困難であるため、タバコにおけるMLP遺伝子の過剰発現により、ウリ科作物以外での有機汚染物質の蓄積を逆遺伝学的に評価する系の開発を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、今年度において、タンパク質結晶化の関連試薬の購入を想定していた。しかし、MLPと嵩高い構造の有機汚染物質との結晶化条件を迅速に同定できた。そのため、当初の予想よりもタンパク質結晶化の関連試薬の購入量は少なかった。また、結合親和性評価の関連試薬の購入も想定していたが、実験の一部は次年度に行うこととなった。以上の理由により、次年度使用額が生じた。
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