研究課題
生体必須微量元素であるセレンは他の微量元素とは異なり、多様な形で天然に存在している。この多様な化学形態それぞれにセレンの生理的性質は依存しており、どのようなセレンを摂取するかがセレンの栄養学、毒性学的観点から重要である。しかし、近年に腸内細菌叢が摂取したセレンを代謝し、宿主動物のセレン利用に影響を与えることが報告されてきている。そこで本研究課題では、腸内細菌叢によるセレン代謝の分子機構解明を目的として研究を実施した。主要な植物由来セレン化合物の1つであるメチルセレノシステインについて腸内細菌叢による代謝を検討したところ、メチルセレノシステインを代謝する腸内細菌を単離した。この腸内細菌によるメチルセレノシステイン代謝物を解析したところ、揮発性のジメチルジセレニド及びジメチルセレニドであることがGC-MSによる分析から明らかとなった。また、可溶性のセレン代謝物も各種質量分析装置によって並行して解析したところ、従来では報告されてこなかった新たなセレン代謝物が産生していた。従って、腸内環境ではこれまでに見過ごされてきた多様なセレン代謝物が産生されていることが示唆され、動物のセレン代謝を理解する上では腸内環境でのセレン代謝を考慮する重要性があらためて示された。以上から、腸内細菌叢は摂取しうる主要なセレン源について腸内にて化学構造変化を担っていることが示され、その分子機構解明に迫る解析結果を本年度では得ることができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究年度では、腸内細菌叢のセレン代謝物として一部を既知のセレン代謝物、一部を未知のセレン代謝物とした分析を実施することができた。この研究成果から、腸内環境でのセレン化合物の化学形態変化を解析するといった本研究計画に沿って研究がおおむね順調に進展していると判断できる。
次年度は検出された未知セレン代謝物の同定を試み、この代謝物の化学構造を明らかにする。代謝物の同定を達成できた後にはその生理的性質を評価し、腸内細菌叢により起こる代謝の影響を検討する。また、このような腸内細菌叢の性質による影響の違いも検討する。
端数が生じたため。
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Journal of Functional Foods
巻: 110 ページ: 105859~105859
10.1016/j.jff.2023.105859