研究課題/領域番号 |
23K13902
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
川出 野絵 名古屋大学, 環境医学研究所, 特任助教 (20910574)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / グリア細胞 / 肥満 / 脂質代謝 / 脳・全身連関 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)のリスク因子には脂質代謝系の遺伝子が複数あり、また、早期AD患者の脳では脂質レベルが変化していることから、ADの脳では脂質代謝系に異常が生じていることが考えられる。また、肥満はADリスクを上昇させる環境要因であることから、代謝組織由来の因子が脳へ作用することが推察される。本研究では、ADモデルマウス(AppNL-G-F)を用いてこの仮説を検証し、AD病態の脳・全身連関に関する新たな知見と病態制御への手がかりを見出すことを目的とした。 脳のリピドーム解析を行ったところ、ADマウスでは増加する脂質よりも減少する脂質が多く、主に変動していたのはリン脂質・糖脂質であるグリセロリン脂質とスフィンゴ脂質だった。脳は脂肪組織に次いで脂質の多い臓器だが、特にミエリンは乾燥重量の約80%が脂質である。そこで、ミエリンを産生するグリア細胞であるオリゴデンドロサイトを脳から磁気細胞分離法で単離し、遺伝子発現解析を行った。ADマウスのオリゴデンドロサイトでは、グリセロリン脂質とスフィンゴ脂質を含めた各種の脂質代謝系遺伝子の発現が変動していた。これらの結果から、ADマウスの脳では脂質プロファイルが変化しており、オリゴデンドロサイトでの脂質代謝系の変動がこれに寄与していることが推察された。また、高脂肪食を摂取させて慢性的に過栄養状態としたADマウスの脳でリピドーム解析を行ったところ、通常食摂取時と同様にグリセロリン脂質、スフィンゴ脂質が主に変動していたが、通常食摂取時と異なりADで増加する脂質が多かった。肥満は脳の脂質プロファイルに影響することが推察された。さらに、血漿のリピドーム解析より、ADマウスでは血中の脂質プロファイルが変動していることがわかった。脳以外の臓器での代謝変化がAD病態に影響する可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AD病態と脳以外の組織との関連性について明らかにするため、代謝組織である肝臓や脂肪組織での脂質代謝系の変動について解析を行ったが、現在、再現性を取るための追加実験を実施している。今後、脳や血漿の結果と合わせて比較解析を行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまではAD病態と関連の深い大脳皮質を中心に解析を行ってきたが、高脂肪食摂取の影響を検討するには他の脳領域にも対象を広げて解析を行う必要がある。今後は視床下部にも対象を広げて解析を実施する予定である。視床下部は摂食中枢があり、脂肪組織で産生されたレプチンが作用するなど、末梢組織と脳の連関を考察する上で重要な脳部位である。また、肝臓や脂肪組織などの代謝組織での脂質代謝系を解析し、ADマウスで血漿リピドミクスが変動するメカニズムや、脳のAD病態との関連性を見出す手がかりを得る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はリピドーム解析やRNAシーケンスのデータ解析と、結果の考察のための文献調査、学会参加を主体に研究活動を行なった。次年度では脳の視床下部や代謝組織の解析、ADマウスへの高脂肪食負荷実験の追加解析などを実施するため、試薬等の購入費用として使用する予定である。
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